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落下の解剖学のふもっふのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
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『落下の解剖学』を観ました。去年のパルムドール受賞作で今年の米アカデミー賞でも五部門にノミネートされている話題作です。粗筋はフランスの山荘に住む夫婦と目が事故によりほとんど見えない息子の三人家族に起こった悲劇から始まります。息子が愛犬(パルム・ドッグ受賞)と散歩し自宅に戻ると父親が地面に倒れていることに気づくのです!すぐさま母親を大きな声で呼び…と一見普通の謎解き物のような作品ですが、今作の主題は圧倒的な”会話劇”なのです。 監督のジュスティーヌ・トリエのことを不勉強で知らなかったのですが、ドキュメンタリー出身らしく緊迫感が漂う演出に引き込まれてしまいました。また彼女のパートナーであるアルチュール・アラリ監督との共同脚本ということで経験談なのかという疑問に「もちろん私たちの日常を映し出しているわけではありませんし、彼への殺意を抱いたこともありません(笑)。」と答えている点が洒落が効いて好感が持てます。また「この作品はスリラー映画のような体裁をとっていますが、実はこのカップルがこれからどうやって一緒に暮らしていくのか?と問いかける作品です。」と答えているように法廷劇の中にこの夫婦の口論する場面が長いシークエンスで現されています。今作の凄まじい会話劇での検察官や夫を演じた役者陣も本当に素晴らしいのは当たり前ですが、オスカーにノミネートされたザンドラ・ヒュラーの現代女性の等身大でありながら腹に一物ある含みを持たせた演技は素晴らしいの一語に尽きると思います!(フランス人とドイツ人の夫婦で会話は英語という難しくて非常に巧みな人物設定に唸る)  法廷劇でありながら”真実”を見せず、でもこの親子の未来が非常に危うい霧が掛かった世界に思えて不穏なまま映画館を出ました。
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