Uえい

落下の解剖学のUえいのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
カンヌでパルムドールを受賞し、アカデミー賞にもノミネートされ注目の作品。夫の死をきっかけに、妻に殺人の容疑がかけられる法廷ミステリーで、ビジュアル的な面白さは無いものの、今の時代の本質を突く内容の傑作だった。

フランス郊外のポツンと一軒家が舞台になっている。そこでは小説家夫婦のサンドラとサミュエル、息子のダニエルが住んでいた。ダニエルは事故で視覚障害を患っており、盲導犬のスヌープ(ボーダーコリーという犬種で可愛い!)と散歩に出かけ、帰ってくると父サミュエルが血を流して倒れていたのだった。

そこからサンドラは殺人の容疑をかけられ、友人の弁護士ヴィンセントと裁判に挑む。そこから何回か裁判が行われ、だんだんと夫の死の真相が明らかになってくる。サンドラ自身、夫がなぜ死んだのかわからず、前日にしたケンカや息子の事故による精神不安など知らなかった面が突きつけられてゆく。偏見に思えるけど、人は色んな仮面をつけているので、今まで認識していた部分も含め、何が本当か分からなくなる。観客に対しても嘘があり、見ている側も同じ様に感じる。

この体験は、SNSなどであたかも真実の様に発信される嘘を目撃した時と同じ心境だった。まさにポストトゥルースの時代に晒されている身近な出来事だ。そして、息子のダニエルはある記憶から、父の真相にひとつづつ事実ベースで積み上げて推察していく。これが今の時代にあるべき姿だと思うし、父の言葉の本当の意図を回想するシーンは泣いた。ダニエルが目に障害があり、聴覚が優れているというのも、映像や見るという行為の不可視性を強く意識させられた。
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