た

落下の解剖学のたのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

人里離れた山荘で暮らす夫婦とその息子。ある日、息子が犬と散歩して帰宅すると庭で倒れている発見する。息子の悲鳴を聞いて妻も駆けつけるも夫は頭から血を流し既に息絶えていた。当初は転落死と判断された事故が不振な点が見つかり妻に殺人の容疑がかかる。真相判明の鍵を握るのは4歳の頃交通事故で視覚障害となった11歳の息子。果たして事故死か他殺か。真相を追究するうちに家族が抱えてきた問題が"解剖"されていく、ミステリーの皮を被ったサスペンスヒューマンドラマ。
証言や供述で徐々に明かされる、自分が知らない、というよりも知りたくない家族の側面。知れば知るほど自分の心を傷つけるが故に目を背けたくなる。しかし息子は葛藤しながらも覚悟を決め家族と真に向き合う、主人公の成長物語が描かれていた。子どもも立派に自分の考えをもって生きている。その事実を再確認させられる。家族の絆を結ぶのはやはり子どもの存在なのだ。
そして、法廷のやりとりの中で何度も出てくる「主観と客観」「事実と想像」。どこぞの名探偵が真実はいつも1つと毎年劇場で言っているが、客観的事実とはもう自然現象しかないのでは、とこの映画を観ながら考えてしまう。物語終盤で登場した夫が死の前日に録音したケンカの音声は、一見妻が殺害する動機づけの決定的証拠と思えるが、よく考えるとあまりにも偶然すぎる。町山智浩の解説から引用すると、妻が夫を死に追いやったと印象づけるように意図的に挑発したケンカであると推測できる。そして最後の息子による半年前の父とのやりとりの証言。何が真実かはっきりはせず物語は終える。劇中でも出てきた「大事なのは事実よりも受け入れやすい物語」というのもテーマの1つなのだろう。
他にも「TAR」で描かれる女性が男性性を担うジェンダー観や「エルスール」「イカとクジラ」で見られた親が持つ陰と陽の二面性などテーマが幾つも積み重なっている本作。上手く内容を処理できない脚本の重厚さ、俳優陣の緊迫感のある演技力。また時間を空けて見返したくなる1作である。
た