nishibi

落下の解剖学のnishibiのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
見えないものを言葉だけで解き明かそうとするなら、間違いがあったとしてもダメージが少ないと思われる方へ舵を切るしかないんだな。

ダニエルが下したのはそういう決断だった。あの時彼は、本当のことを教えて、と母親を問い詰めることを選ばずに、自分の見聞きした事実だけを話すことを選んだ。そこへ至る葛藤の中で交わされたベルジェとの会話はとても印象深いシーンだった。
傍観者には知らせる必要のないこと、と突き放され放り出された感があるのだけど、法律の及ばない心の領域の話であり、それを殺人と呼ぶかどうかは、サンドラとダニエルの間でだけ理解しあっていればいいんだと思う。
車の中で号泣するサンドラを見て、何を想像するかも、人それぞれだろう。あのシーンと、ラストとで、私はやっぱり、サンドラは永遠に言わないでいることがあるんだろう、という気がした。でも、それだって想像なので。
そういう部分もすべて含めて、ものすごい心理劇の傑作だと思う。
nishibi

nishibi