強制収容所の隣で平和な生活を送る家族のお話
強烈。平和な生活を送る家族の日常風景から垣間見える強制収容所と虐殺された人々の声。カメラは家族の日常を映すことだけに徹し、私達観客は登場人物と同じく虐殺されている人々を声を聞くことしかできず、絶えることなく続くそれはいつしか日常の光景と同化し始め、殺されていく人々の声が当たり前のものとなっていく様が恐ろしい。
所長達の生活とユダヤ人少女の生活との対比が印象的。赤外線カメラで撮られた、夜間に隠れるように身を潜めてリンゴを取る少女の姿は、これまで綺麗で美しい映像が続いてきたからこそ異質なものとして際立っている。
ジャンプカット演出がかなり多いが、時折ハッと驚かされるようなジャンプカットが入り込んで凄い。特に中盤とラストにははゾッとする程のジャンプカットがあり、これがかなり素晴らしい。カメラのテンポ感が一切変わらないからこそ強引にも近しい地理的に飛躍したジャンプカットによって、日常と虐殺の対比構図が極まっている。
しかし一方で映画としては「強制収容所の隣で過ごす日常」の範囲を超えることはなく、恐ろしさの演出も「音」一辺倒だったためそれが気になった。大傑作になりそうな気配を漂わせながらちょうどいい良作止まりな印象。
だけどこの規模感でこれ程の淡白な映画を作れたのが素晴らしく、また、虐殺された人々の画像と日常の呟きが同時に流れてくるSNSを使っている私達にとっても他人事では無い内容だった。
あと「現在進行形で起きている虐殺を見て見ぬふりしながら自分達の生活を保とうとする人」の映画を観た後にジョナサン・グレイザー監督を非難する声明に署名したハリウッド業界の人々ってちょっと凄すぎるかもな...
