パイルD3

関心領域のパイルD3のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
有刺鉄線が張られた一枚の石塀で、仕切られた第二次大戦下の大虐殺現場の内と外、
さながら天国と地獄を思わせるが、映画は外側の天国のような生活風景だけを見せて、内側の地獄は一切見せない

この構図が観る者に途轍もない不安と恐怖心をもたらす

【関心領域】

天国にいれば、地獄には関心が無いのか?
この命題は、その姿に接している観る者に向けての問いかけで、登場人物たちにはそんな差異など何の関心もない
 
不自由なく好環境下で生きている者は、基本は何事にも無関心なのだ
自分さえ良ければ、人のことは問題なしというスタンスが染み付いている

《天国》
ここでの天国は、アウシュヴィッツ収容所の隣に位置する、収容所長ヘス(クリスティアン・フリーデル)の妻子ら家族が住むプールと農園付きの豪邸で、身辺の世話をする家政婦も数名いて暮らし向きは富裕層のそれである

ただ、ここを天国だと思っているのは所長夫人(ザンドラ・ヒュラー)だけであることが、子供や訪問してきた母親、周囲の人間たちの行動から次第に見えてくる

家族でありながら、最低限の接点以外、互いが互いのあり方にさして関心もなく、干渉している風でもない 
子供らは遊んでいても、真から楽しそうには見えない…

《地獄》
地獄が更に異様なものとして想像させられるのは、その存在を“音“で表現しているからでもある
時折聞こえてくる銃声、断末魔の叫び声、不連続で流れ続ける火葬場あたりから聞こえる重低音…そんな歴史に刻まれたホロコーストの暴力と悲痛が音として伝わってくる

この新設された火葬場からは、黒々とした煙がいつもゆらゆらと立ち上っている

そんな不穏な音域に呼応するかのような、豪邸の庭や屋敷内に響いている泣き止まない赤ん坊の声、犬の吠え続ける声…

《単調な生活風景》
確かに高評を受けるだけの重厚な作りは納得だが、ではおもしろいかと言えば、筋立て自体はおもしろくはない
恐ろしく退屈だとも言える

効果的に塀の中の音を引き立たせるための波の少ない作りとは言え、単調で変化の薄い生活の絵姿と、他愛ない会話のやりとりはドラマ性に乏しいので、黙って見つめているしかない…

《メッセージ》
ユダヤ人をルーツとする監督ジョナサン・グレイザーが、しっかりメッセージを投げかけてくるのはラストの見せ方
何故あの時空を超えた流れなのか、そして登場人物がふと振り向いて、観る者と目が合うカットは何を意味しているのかが、単調な流れへの重要な解答になっている

しかし
最も言葉に窮するのは、火葬から出た灰を植物の肥料にするといういかにも罰当たりな行為なのだが、この人々は全く無頓着である

死者の無念を吸収して咲き乱れる真っ赤な花の色が意味するものこそ、映画が観る者に叩きつけてくる音なき絶叫でもある
パイルD3

パイルD3