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関心領域のKUBOのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.8
アカデミー賞ノミネートで、ずっと見たかった『関心領域』を公開初日に鑑賞。

あの「アウシュビッツ」の壁一枚を隔てた所に住む所長家族の生活を描いている作品ということで、「どんなホラーよりも恐ろしい」なんてキャッチコピーもあったが、実は映画としては地味。

それは本作では直接的にはアウシュビッツで何が行われていたのかが描かれていないこと。

だから、アウシュビッツのことを知らないと、これだけ見てもわからない。

『サウルの息子』や『ライフ・イズ・ワンダフル』、『シンドラーのリスト』などを見ていない人には、本作の恐ろしさはちゃんと伝わるまい。

作品内で、壁の向こうに聳える煙突からは常に煙が上がっている。もちろんこれはユダヤ人の死体を燃やしている焼却炉だ。

「好きな服を選んで」と言って配られる女性服は、ガス室に送られる前に身ぐるみ剥がされたユダヤ人の物。

所長宅で働く女性に所長の妻が言う「夫に言ってお前を灰にしてやる!」。そう、家政婦は「ゾンダーコマンド」のように働かされているユダヤ人女性なのだ。

そんな環境の中で所長のヘス一家は幸せに暮らしている。子供はともかく、大人は女性だって隣で何が行われているのか、夫がどんな仕事をしているのか知っているはずなのに、アウシュビッツの隣にある邸宅を「子育てに理想の環境」「夢見ていた生活」と迷いなく言う。

24時間、焼却炉が稼働している重低音と悲鳴が聞こえているのに…

その鈍感さ、その無関心が恐ろしい。

「アウシュビッツ」の事実を知っている人が見れば、どんなホラーより恐ろしい映画だ。

だから、よく知らない人は前述の映画をどれか一つでも見てから本作を見るべきだろう。

エンドロールにかかる音楽がまた不快感を煽る。最後の最後まで気が狂いそうになる音楽が続いた。

*ただ「”民族を根絶やしにする”なんてことが、つい80年くらい前には行われていた」と過去のことのようにも言えなくなってきている。今行われているガザに対するイスラエルの攻撃だって、同じことではないのか? ならば、100年経っても人類は同じことを繰り返すのか? ナチスの蛮行が当のユダヤ人にも教訓とはならないのか? いろいろと考えさせられる映画だった。
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