ノラネコの呑んで観るシネマ

関心領域のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.7
恐ろしい映画だ。
自然の美しい田舎の家に、両親と幼い子供たちが暮らしている。
家には広い庭やプールもあり、満ち足りた幸せそうな生活。
だがこの家があるのはアウシュビッツ絶滅収容所の隣であり、主人は悪名高い初代所長のルドルフ・ヘスなのである。
映画は、収容所の中のことは描かない。
基本的にはヘス家の日常の風景なのだが、家にはどこからか高価な古着が持ち込まれ、女たちが分け合っている。
塀の向こうには昼夜を問わずに炎を吹き出す焼却炉の煙突が見え、ひっきりなしに誰かの悲鳴や銃声が聞こえる。
中で何が行われているのかは、ヘス以外も当然知っている。
新たな絶滅計画や、どうしたら毒ガスを効率的に降らさせるか?と言った恐ろしい言葉が夫婦の会話にふいに入ってくる。
でも一家にとっては虐殺が日常であり、当然のことなのだ。
カメラは終始引いた視点で捉えられ、表情を見せるためのクローズアップはほぼない。
まるで、隠しカメラでヘス家の日常を見ている感覚。
「アンダー・ザ・スキン」の、寓話的世界観が印象的だったジョナサン・グレイザーは、本作でも“観察者”として独特のシネマティックワールドを構築している。 
ホロコーストは今までも様々なアプローチで描かれてきたが、その中でも本作の独創性は際立つ。
この極めて映画的な異様さは、暗闇のスクリーンでこそ味わうべきだろう。
ブログ記事:
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