シバザキ

関心領域のシバザキのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
 本作の監督ジョナサン・グレイザー氏はあの名MV『Virtual Insanity』を撮ったお方なので、一体どんな映像表現を見せてくれるんだと期待大で観に行きました。同時に絶対に見た後に落ち込むことになるんだろうなと容易に予測できる題材でもあったので相応の覚悟を決めておきましたが、そのどちらも予想通りの観るのに非常にカロリーのいる作品でありました。

 アウシュビッツの隣の家で暮らす家族の生活を淡々と映す、というアイデア自体は正直そこまで珍しいものではない気がしますが、本作はその不穏さを高めていく映画的演出が秀でています。日常に溶け込む悲鳴や銃声から、汽車の煙、兵士から軍用車とグラデーション的に虐殺のディティールをあくまで直接的描写を避けながら観客に匂わせていく手法が不気味ですごかった。家に住む人たちはその虐殺事態に関心はないものの、子供たちの言動や使用人への当たり方などでどこか影響を受けている部分をチラ見せするようなセリフ回しも程よく観客をゾッとさせてくれます。夫の仕事の都合上仕方なくそこに住んでいる、というわけではなく、家族たちもそこを理想的な環境だと信じきっていることも恐ろしさに拍車をかけます。

 そういった戦時中の庶民の倫理観の恐ろしさを的確に描いているのと同時に、映像的な演出面でも意外と今まで見たことがない挑戦的なことをやっているのも嬉しい誤算でした。シンメトリーな構図で統一されたカメラワークや人物を絶対にクローズアップしない引きの姿勢を貫くところはもちろん、サーモカメラを使った撮影や上映環境の不備を疑うほどに長い暗転など、けっこう新鮮な演出を見ることができます。終盤にあるシーンの編集は、当時の人間が未来をのぞいてしまったかのような超常的な現象を想起させる非常に素晴らしいモンタージュだと思いました。

 ただやはり映画としてわかりやすいドラマはないです。戦時中の庶民の生活を描いているのでそこに映画的なドラマ入れようがないんですが、それをわかっていても退屈に感じるような場面がないわけではありません。その退屈さすら、起こっている出来事に関心を持たない映画内の人物と観客を重ね合わせるような効果を狙ってのことであるとはわかってはいるのですが、正直な感想としてその退屈は付き纏ってしまったと思います。
 この辺りは『ヒトラーの虐殺会議』を観た時にも感じた、この手のテーマの作品が面白くあっていいのか問題に通づるところがありました。

 当然のことながら音が非常に重要な作品なので映画館で観るのが最適解です。画質も非常にクリアで、それこそ高いビデオカメラで撮ったホームビデオを見ているよう。そのように普通の人間がそこで生活していること自体に異様な不気味さを覚えるような映画なので、全ての演出がちゃんと意図的に働いている映像作品としてとても優れている作品であることも疑いようがありません。
 音楽のおどろおどろしさがすごく、流れる時間こそ少ないもののハンス・ジマーとルドウィグ・ゴランソンにも通づるような特徴的なテーマでそこもけっこう衝撃を受けました。
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