ゆうゆ

関心領域のゆうゆのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
5.0

"わたしだけの理想郷🌺"

ホロコーストの残虐を斬新なアプローチで描いた異色作。
不安を煽るような暗闇をぬけて広がる 絵画でよく目にするような牧歌的な家族の風景から始まるオープニング。映し出される優雅で微笑ましい家族の日常を薄らと覆う絶えまない煙と謎めいたな異音、随所にチラ見えするナチスの影。会話や些細な描写からみえてくる衝撃に臆することのない 家族の笑顔に覚える違和感。轟く銃声も阿鼻絶叫も彼らにとっては豊かな暮らしに添えられたありふれたBGMなのか。
断末魔の叫びや 死の粒子を間近に浴びて咲き誇る 色鮮やかな花々を愛で、育てた野菜を自分たちの血肉に変える薄ら寒さ

常態化する異音への慣れ、閉鎖的な環境下 充実した理想の暮らしを営む彼らにとって、直に目にすることのない外野の苦しみはまるでテレビの中の別世界の出来事のように蚊帳の外の惨状なのか 同時に自身が正気を保つため無意識にコントロールされた無関心、あるいは '都合のいい耳' がもたらす現実逃避なのかもしれない

自身の"偉業"が残した未来を見つめ 静かにメンタルを脅かされる夫、
娘家族の於かれた異様な環境に怯んだ妻の母親、
ちびナチスを彷彿させる息子や
ホラーな闇で父の声で安らぎを得る娘
そして

私の物は私のもの
'あいつら' のモノも私の物

着実に不穏に侵食される家族の中、ひとり傲慢に指揮を執る家庭内独裁者、 "ホロコーストの女王" の傲慢なふてぶてしさは地味にジワる。彼女にとって 塀の向こうの出来事は害獣駆除の殺処理場の雄叫び程度の認識なんじゃないのか。
ザンドラヒュラーの少し猫背な肉付きや独特の歩き方 毒を孕んだ笑顔まで見事にハマっていて、出演を躊躇いながらも愛犬と一緒に出演してくれた決断を讃えたい

ファンタジックな童話になぞられたナチスの非道のなかで小さく輝く赤の慈愛、搾取された収集品で皮肉る 邪な大人と無邪気な子どもの関心の残酷、暗闇の奥に潜む 現世に導かれる負の継承。
アートで刺激的な映像アプローチ、こんなに鳥肌が立つ程のトラウマレベルのホラーエンドロールははじめて。

世界のどこかで今も続く現在進行形の叫び
平和な島国でメディアを通してその惨状を傍観しながらも 自分の幸せな生活に重点を置く私たちへの警鐘とも取れる静かなメッセージ。
視覚と聴覚を強烈に揺さぶる鮮烈体験でした
ゆうゆ

ゆうゆ