具合が悪くなることがわかった上で見て案の定具合が悪くなって終わる映画体験だった。
本作で描かれる家族とその家は、塀の向こう側が収容所でなければ、遠くから見える焼却炉の煙が、聞こえてくる悲鳴や銃声がなければ、"丁寧な暮らし"を営む仲睦まじく慎ましい夫婦とその子供たちの姿そのものなのだけれど、実のところ塀を越えたすぐ隣はアウシュビッツ収容所で毎日のように銃声と悲鳴が鳴り響き、何なら収容所を運営することでその豊かさを享受しているナチスドイツ時代に作り上げられた人種の理不尽ピラミッドのトップに君臨していた人たちなので、見ていて具合が悪くならないはずがなかった。
"楽園"と称するその美しい土地は、上質なコートは、口紅は、誰のものだったのか。
「関心領域("THE ZONE OF INTEREST", "Interessengebiet")」とはアウシュビッツ強制収容所を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現した言葉。なぜそんな名前なのかと最初はピンと来なかったけれど、世間の目をアウシュビッツでの蛮行から遠ざけるために使われたと知って背景からその言葉のグロさを知る。
作中、突然挟まれるサーモグラフィーで映された少女のシーンがある。彼女が何をしていたか、調べるとすぐに出てくるのだけれど、今を生きる中で私が何をすれば彼女のようなことをしたと言えるだろうかと考え続けている。