八瀬

関心領域の八瀬のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.9
「見なければいけない」という義務感で映画を見るのはどうなんだろうと思いつつ、でも、この映画に関しては「見なければいけない」と思う。
決して見終わっても良い気持ちになる映画ではないとわかっていても。
目を逸らすな。無関心になるな。
どんなに酷いことが行われているのか。すぐ隣で起きていることも、目を逸らしさえしたら、簡単に見ないまま生活できてしまう。壁の向こうで夥しい数の罪のない人々が虐殺されていようが、知らなくて済む生活をしてしまう。過去の話ではなく、現在進行形で。そんな「無関心を装った加害」には加わりたくない。

映画自体は不思議な映画だと思う。「実は、こういうことだったのだ!」などという説明も一切なく、見ている者が「知っている」前提で映像が流れていく。観察者の視点。見終わってから感じたのは、収容所の博物館の展示のような映画だったなという印象。何が行われていたのか。彼らがどんな生活をしていたのか。虐殺された人々の大量の遺品と共にそれを見ることによって、そのグロテスクさが浮き彫りになるような。

妻の母親が印象的だった。決して善ではない。娘の豊かな暮らしに満足しつつ、ふとした瞬間に(悲鳴や銃声を耳にして)視線を彷徨わせる。それまでずっと別の話をしていたのに、ふと「隣」を意識するあの一瞬の表情。あれがすごく恐ろしかった。彼らはちゃんとわかっているのだ。何が行われているのか。自分たちが何を奪っているのか。わかった上で、それを無視して、当たり前のこととして生活しているのだ。それがぞっとする。同時に、見ている多くの人に一番近いのがあの母親なのではと感じる。自分も同じことをしているのでは?同じことをするのでは?そう感じてしまうのがとても怖い。

見終わって決して晴れやかな気持ちになる映画ではない。見たからといって褒められるわけでもない。それでも、目を逸らさずに見るべきだと思う。考えるべきだと思う。唯一正しい行いをしたあの少女のように、間違えないために。
八瀬

八瀬