わふる

ドラキュラ/デメテル号最期の航海のわふるのレビュー・感想・評価

3.4
序盤全く船が揺れておらず、また照明もチープで臨場感が皆無だった。常に画面がそれなりに明るく、見やすさと引き換えにリアリティが完全に無くなっていた。

そもそもずーっと舞台が船上なので画が変わり映えしない。またキャラクター性が薄く船員達の思いのたけがそれほど伝わってこない。そんな中で後半キャラクターを妙に感動的に描いていたために、作品がやろうとしている事とこちらとの気持ちの乖離が激しかった。不自然なアクションにそうはならんやろという倒し方をするカタルシスも何も感じない落とし所には最早笑ってしまった。
定期的に挟み込まれる一人称視点のカットは不自然極まりなく、映像のボケ感もどこか安っぽかった。

ただドラキュラが登場するシーンには光るものを感じた。ドラキュラの全貌がしっかり映るのでホラーというよりモンスターパニック色のほうが強く、紳士服のイメージがあったので全裸のドラキュラからはモンスター感をより強く感じた。
ドラキュラにつけられた傷跡は妙にリアルでとてもグロテスクであり、その残忍性を物語るには十分であったと思う。
甲板から射し込む月明かりに絶妙に照らされたドラキュラは、その全貌を知ってはいても不気味で恐ろしかった。この辺のシーンは照明の塩梅が丁度よく、ドラキュラの恐怖を効果的に描けていたと思う。
他には帆を使った勢いのある殺し方や望遠鏡の可視性の間隙を縫う登場シーン、襲っている最中に見え隠れする被害者や羽を広げたおぞましい姿を映したカットなどが印象的であった。
また全体的にドラキュラが襲いかかるシーンはカット割りが多く、スローテンポな人間模様との緩急が生まれていてそこも良かった。問題はその人間模様が驚くほどつまらないことにあると思う。もっとドラキュラに重点を置いて欲しかったが何か大人の事情があるのだろう。
襲い方に既視感を感じるようなシーンがあったりはしたが、全体を通してドラキュラというモンスターを堪能することはできた。
このドラキュラをもっと上手く活かせたはずなので勿体なく思う。

正直アンドレ・ウーヴレダル監督が自分で脚本を執筆した作品がまた見たい。欲を言うと最近撮っているミニマムなホラーではない、トロール・ハンターのように巨大なモンスターを扱う作品をもう一度見たい。
わふる

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