雑記猫

北極百貨店のコンシェルジュさんの雑記猫のレビュー・感想・評価

3.7
 動物たちが訪れる高級百貨店「北極百貨店」。新人コンシェルジュとして働き始めた秋乃は、日々訪れる動物たちの願いを叶えるため奔走する。

 様々な目的や思いを抱えて百貨店へやってくる動物たちによる短い人情噺の連作で構成された本作。ポップでありながら抑えも効いた色調とデザインのキャラクターたちの心温まる物語は、可愛らしくも媚びのない、言うならば、上品な可愛らしさを備えた作品といった仕上がりの作品となっている。

 まず目を引くのは百貨店を訪れる様々な動物たちや店員の可愛らしいキャラクター性。はっきりとデフォルメの施された画風ながら、キャピキャピしすぎることのないキャラクターデザインが実に程よい。特に、登場するそれぞれの動物たちが、ある程度の擬人化がなされつつも、それぞれの元のモチーフの動物のシルエットをしっかりと残されたデザインとなっており、このバラエティの豊かさが様々な客が訪れる百貨店という本作の舞台設定とバシッとマッチしている。また、作品全体の色調も良く、個々のキャラクターはポップでくっきりとしていながら、全体としては淡く穏やかな印象を与える落ち着いた色合いで構成されており、これが作品の地に足の付いた作風を生み出している。

 ストーリー自体は奇を衒ったものではなく、比較的オーソドックスな人情噺のショートストーリーを繋ぎ合わせたものとなっている。この一つ一つのショートストーリーは、主人公が努力と少しの機転でトラブルを解決していくという王道のお仕事ものなのだが、一つ一つの物語でしっかりと暖かいオチが用意されており、これが実に心地よい。一方で、ただただ優しい世界の物語に終始しているわけでもなく、その中には仕事の矜持であったり、愛する者との別離であったりも織り込まれており、こういったスパイスが物語全体をピリッと引き締めている。そして、そういった厳しい部分があるからこそ、より一層、主人公の秋乃のひたむきさに心が揺さぶられるのである。安直な表現ではあるものの、所謂「こういうのでいいんだよ、こういうので」という塩梅の可愛らしくも上品なハートウォーミングストーリーとなっている。

 この落ち着いた上品な可愛らしさという本作の作風に大きく貢献しているのが、主人公・秋乃を演じる主演の川井田夏海だ。本作、プロットを冷静に見ると、主人公の秋乃は相当わちゃわちゃして落ち着きのないキャラクターとなっており、作中のかなりの時間、慌てふためいてワタワタしている。しかし、秋乃を演じる川井田のしっかりとした青臭さはあるのに、キンキンとした感じのないトーンのおかげで、全く疲れずに秋乃の七転八倒を観ていられるのである。このバランス感覚が素晴らしい。もちろんアニメーションの演出が組み合わさってこそのことではあるのだが、全体として、どんなに秋乃がすったもんだしたり、ドタバタ走り回っても、コミカルな雰囲気にこそなれ、ガチャガチャした雰囲気にはならず、落ち着いて物語の行く末を負うことができるようになっている。非常に良いキャスティングだ。合わせて最後に、マンモスのウーリーを演じる津田健次郎の演技の良さにも触れておきたい。このウーリーは心に小さな傷を抱えており、落ち着いて淡々としたキャラクターなのだが、そんな彼の心がクライマックスにほんの少しだけ揺れる瞬間が訪れる。これをたった一言の僅かな息遣いで表現する津田健次郎の表現力は実に圧巻である。
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