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乱れるのあのレビュー・感想・評価

乱れる(1964年製作の映画)
5.0
序盤街中での駆け引きからすでに予見される、追う追われるの抜き差しならない道中が、やがて臨界点に達する様が圧巻でした。「浮雲」然り、成瀬巳喜男は実は日本一のロードムービーの名手なのではと思ってしまいました。

ドリーショットと乗り物をうまく使って、男女の世界を孤立させることや、束の間の逗留から関係性の破滅に向かう展開の厳しさには、どことなく濱口竜介を感じさせます。一本筋の話を太く単純明快にやってのける手腕に関しては成瀬巳喜男だとしても、複数の男女関係をパラレルに進めてしまう濱口竜介はその発展系なのではとふと思わされます。

また、去る者と弁えて故郷へ向かう高峰秀子の純朴さと謙虚さが本当に素晴らしかったですね。その反面「浮雲」ではずるずると過去を引きずっていたわけですが、いずれにせよ、運命のためならば死ねる強さをいつも感じさせます。高峰秀子が通った道からの景色はみんな無音になってしまう。そういった魔力があるように思います。この前やっていた特集に行けばよかったと今更ながら後悔しています。

さらに、若大将こと加山雄三もこれまたよくてですね。貫禄があるのにも関わらずどこか浮ついていて青臭い、この対立するイメージの絶妙な塩梅が、突飛な行動と自殺とも取れる事故死に圧倒的な説得力を与えていました。
あ