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グランツーリスモのRのネタバレレビュー・内容・結末

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2023年のアメリカの作品。

監督は「チャッピー」のニール・ブロンカンプ。

あらすじ

世界的大ヒットレーシングゲーム「グランツーリスモ」に夢中なゲーマー青年ヤン(アーチー・マデクウェ「ハート・オブ・ストーン」)は父親に呆れられながらも、ゲームを続ける日々を送っていた。そんなある日、世界中から集められた「グランツーリスモ」のトッププレイヤーたちを本物の国際カーレースに出場するプロレーサーとして育成する「GTアカデミー」に加入することになったヤンは仲間たちや元レーサーの指導官ジャック(デヴィッド・ハーパー「屋根裏のアーネスト」)と出会い、鎬を削りながら、運命のデビュー戦を迎える!!

一応、免許を持ってる俺だけど、初路上で反対車線に入りかけたり、マニュアルからオートマに途中変更したり、効果測定に何度も落ちたりとまぁ、運転する才能がまるでなく、免許がただの身分証(もちろんゴールド!)に成り果てたペーパー中のペーパードライバー。

ということで運転自体にはにがい思い出しかないんだけど、今作の元になったゲーム「グランツーリスモ(以下GT)」は確か父親が買ってくれて、ちょっぴりやったことがあって、本当に運転しているような感覚はまるで本物のレーサーになったようで新感覚だった記憶がある。

そんな「グランツーリスモ」がなんと実写映画化!初めは「ある理由」からあんまり観る気ねぇなーと思ったんだけど、YouTubeチャンネル「シネマンション」をはじめ、各界で絶賛されていて、なおかつFilmarksの評価もめちゃくちゃ高かったので鑑賞してみました!

で、その「ある理由」ってのが監督があの「第9地区」をはじめとしたSF映画を得意とするニール・ブロンカンプだという点。一応、監督の長編作はなんだかんだ映画館や配信で全部観てきたんだけど(短編だとあのグロキモい手のモンスターが出る「融合体」だけ観た!)、前作の「デモニック」がとにかく個人的にはイマイチすぎて、「映画作り向いてないのでは…」的なことを素人のくせにほざいていたんだけど…

結論としては、いや、監督すいませんでした💦かなり面白かったです!!

お話はあらすじの通り、GTの実写版なんだけど、キモとしてはこれがなんと「実話」だという点。実際にエンドロールではご本人も登場し、加えて今作では主人公のスタントと映画自体のプロデュースも務めているという…なんつーかすげー話。

で、これまで「第9地区」から始まり「エリジウム」「チャッピー」そして、「デモニック」に至るまでなんだかんだSFばっか監督していたブロンカンプ監督初の「モータースポーツ映画」という他ジャンルの映画でもあるわけで、さてどんなもんやって感じなんだけど、これがまぁ作りは王道のスポ根もの!!

平凡な日々を送っていた主人公がある日、見初められて、ライバルたちと鎬を削り、ヒロインとのラブがあり、紆余曲折あり、最後は「栄光」を手にするという、もはや映画だけでなくあらゆるメディアで手垢が尽くされた内容ではあるんだけど、何つーか全体の作りがすごく丁寧。え?これほんとに「デモニック」の監督なの?ってくらい丁寧。

加えて、これまでも新しい発想のアイディアを詰め込んでいた監督なだけあって、レーシングシーン自体も「なるほど、これはゲームを絡ませた作品だ!」と思わせる演出があって、例えば冒頭、主人公ヤンが新しく買ったハンドル型のコントローラー?を使って実際のGTのレースに参加するシーンで、レースが始まると単なるゲーム部屋があら不思議ウィーンガシャガシャとまるでトランスフォームするかの如く主人公の周りが変容していってレーシングカーの運転席に様変わりするシーンになっていて、そこがめちゃくちゃカッコよかった!

加えて「GT」ならではの演出もあって、例えば順位を追い抜くところで活路を切り開く場面ではゲームのように赤いラインで目印が出てきたり、それぞれの車の上に「4位 ヤン」とかゲームみたいに出てきたりと、これこそ「GT」の映画!と思わせる憎い演出であり、なおかつ他のモータースポーツ映画館でにはない演出にもなっていて新鮮で面白かった!

で、演者もまた良くて、主人公ヤンを演じるのはアーチー・マデクウェ。うーん、知らんな!と思った人はアリ・アスターの「ミッド・サマー」で「血の鷲」処刑されて、背面ガバァー!されたあの人です笑。あん時は端役だったんだけど、いつのまにかこんな大作に抜擢されるようになったんか!という感じなんだけど、普段はタッパはあるし、髪型もスタイリッシュなんだけど、アレックス・ウルフに似たぬぼーっとした眠たげな目つきが非常にダウナー感を醸し出し、ゲーマーあがりのレーサーという役を演じるにはピッタリ!!ただ、段々とゲーマーからレーサーの顔つきに変わるというか、卑劣な妨害をしてきた相手に激昂するなど、段々と荒々しい表情を見せるなど上手かった。

そして、「GTアカデミー」の発起人であり、プロデューサー的なダニーを演じるのはオーランド・ブルーム(「アウトポスト」)!なんかとんと観なくなったなーと思ったら、今作では胡散臭い後ろ髪モジャ男になって登場するんだけど、いや老けたなー!ただ、そんな風貌でもイケメンっぷりは健在でにこやかスマイルは「パイレーツ」の頃から変わらず男前で日産の社員相手に片言の日本語で「アリガトゴザイマス。」って言ってるその片言がもうなんかカッコいい笑。ただ、ヤンを無条件に庇護するというわけではなく、最終審査のわずかなゴールインの順位を巡って、インタビュー受けする2位のマティ(ダレン・バーネット)を抜擢しようとしたりとあくまで経営者としてのプロデュース重視な顔を見せる感じもあって新鮮だった。

ただ、なんといってもオーランド以上に美味しいところを持ってくのがヤンの指導者となるジャックを演じたデヴィッド・ハーパー!「ストレンジャー・シングス」の署長役から今や売れに売れてMCUの「サンダーボルツ」の一員にもなる予定のおっさん俳優なんだけど、今作では鬼教官を熱演、それ自体コワモテのハーパーが演じるからピッタリなんだけど、スポ根ものの指導者要素全部盛りというか、悲しい過去があって、一線を退き、今や落ちたレジェンド扱いされているんだけど、指導は的確なのがカッコいい!!人員を厳選する際はバシバシ首切って容赦はないんだけど、ちゃんと見るところしっかり見ていて、特にヤンに対しては上述のダニーとの最終選考誰にするかでちゃんとヤンのことを選んだし、その後もなにかと厳しい言葉はかけつつもヤンのことを支え、メンターとなっていく、まさに理想の指導者って感じ。

プライベートでは昔のカセットプレーヤーでブラック・サバスを聞いていて、そこらへんはオッサンなんだけど、その姿を見たヤンから最新のウォークマンをプレゼントされて、そん時に「ある悲しい事故」があったこともあってすげぇ悲しい顔を見せるんだけど、ただ男泣き!って感じではなく、顔をゴシゴシしながら涙を堪えようとする事で涙なくとも最大限の「悲しみ」を表現する…いやぁ渋くて良い演技だったなぁ。

あと、アカデミー以外の面々だと、あのジャイモン・フンスー(「シャザム!〜神々の怒り〜」)がなんとヤンの父親スティーヴを演じているんだけど、え、フンスーが父親役!?っていう意外性がありながら、いやこれがかなり良くて、特にクライマックスの「ル・マン」での場面でずっと離れ離れになっていて、ようやく再会したシーンでは、それまでフンスーって顰めっ面ばっかで繊細な演技のイメージがなかったんだけど、それまでレーサーの道を反対していた厳格な父親の顔から一変、ヤンが一番つらい時に「支えてやれなくてすまなかった。」と悲しみを露わに涙を流す場面でこちらも我慢できずに涙涙。改めて良い役者さんだなーと思った。

お話はアカデミーに入って、そのあとアカデミーのライバルとの最終選考のレースではれてシムレーサー(ゲーマーあがりのレーサー)から本物のレーサーになったヤンが本筋のレーサーたちとレースをすることになる流れなんだけど、とにかくレースシーンはど迫力!!

上述のGTならではの演出もある中、広大なサーキットをレーシングカーの爆音でギャンギャンとかっ飛ばしながら、車と車がぶつかり、せめぎ合い、ほんの僅かなスキを狙って順位を争う様はマジでスリル満点。

また、ここはなんといっても車の音を体感する時間でもあり、その意味ではマジで映画館鑑賞が必須と言える。車にはとんと疎いので車のそれ自体のなんたるかについてはよくわかんないんだけど、そんなペーパーな俺が観てもやっぱその迫力はすごかった。

ただ、それと同時にカーレースといえば死と隣り合わせの危険な競技でもあり、劇中でもヤンやライバルレーサーが度々クラッシュしてヒヤヒヤさせてくるんだけど、やはり王道のスポ根もの、いい感じでライセンスも勝ち取り、日産のプロレーサーとなったヤンにも「挫折」が待ち受ける。しかも、かなりショッキングな挫折が。

それは天候が若干芳しくないレース会場、憎きライバルも颯爽と抜き去り、はれて2位に食い込んだ状態でかっ飛ばすヤンなんだけど、風があったせいで車体が浮いたまま盛大にクラッシュして観客席に突っ込み、なんと観客が死亡してしまう…。

こういうのって、主人公が重傷を負ったり、仲間が死んじゃうパターンはあったけど、レースを見にきていた見ず知らずの関係ない人が死ぬって…なんつーか辛いわな。

ヤン自身も重傷を負うんだけど、それよりも観客が自分のせいで死んじゃったことでショックを受けて塞ぎ込んでしまう。そりゃそうだよな、それまで架空の世界でレースを楽しんできただけなのに、自分の運転する車のせいで人が死んでしまうなんて、あまりにも現実が過酷すぎる。

ただ、そこで実はヤンと同じような境遇を持っていたジャックに悲しい過去を聞かされ、それでもお前は俺と違うと元気づけられ、奮起したヤンが挑むは「ル・マン24時間耐久レース」!!

え、普通のレースでもキツいのにそれが24時間!?という、素人目に見てもなんともハードなレースなんだけど、アカデミーのマティやアントニオ(ぺぺ・バロッソ)も集まり、役者は揃った!という感じでチーム戦で挑むクライマックス!

初めはライバルがクラッシュしたことで事故のトラウマが蘇り、なかなか本領を発揮できないヤンなんだけど、無線で指示を送っていたジャックが普段ヤンがレース前に聞いているケニー・Gやエンヤを流すおふざけでまたも奮起、「怒り」のパワーでかっ飛ばすシーンも良かったし、最終ラップ、スタッフのミスで大きく順位を落としながら、今度は冒頭のシーンの意趣返しでレーシングカーから普段のゲーム部屋にトランスフォームしてのスティーヴとの何気ない会話から活路を見出し、8位、7位、6位と大きく順位を伸ばしていくヤン。そして、最終コーナー、ライバルのキャパ(ヨシャ・ストラドフスキー)との一騎打ちで激しい火花を散らし、くるかくるかの見事ランクインの3位でのゴールイン!!!!よっしゃぁーー!!!

それまでゲームという「架空」の世界で生きてきたゲーマーが遂に「本物」のレーサーを打ち破り「栄光」を掴んだそのジャイアントキリングにこちらまで血流が沸騰するように熱くなった!!

まぁ、ただ多少気になる部分はあって、特に日本人の入れ込み方、せっかくアカデミーで世界中のプレーヤーが集っているのに、そこにGTの生みの親である日本のプレーヤーがいないのはどういうことなん!?韓国のプレーヤー入れるんだったら、日本人員俳優使って日本のプレーヤーにしちゃえば良くないか?

あと、そもそもGTの生みだしたプロレーサーの山内一典を俳優の平岳大(「ボクたちはみんな大人になれなかった」)が演じていて、細かいところなんだけど、いやそこはご本人が演じるべきなのでは?と思ってしまった。

まぁ、そんな細かい部分は抜きにしてもブロンカンプの面目躍如という感じで車全然わかってない俺が観てもど迫力な映画でした!夏の大作続きが終わり、狭間のこのウィーク、ゲームの映画化となめて観ないでこの迫力を体感してみてはいかがでしょうか?
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