motoietchika

瞳をとじてのmotoietchikaのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.0
映画に人生を捧げた人にしか撮りえない映画。人生の空白の埋め合わせを、映画でしようと試みる物語。映画に宿る時間と記憶…ラストがドラマチックすぎてびっくりする。

シャンテを出たらビルの隙間で立ち小便している人を見かけて、そこから少し離れた別のビルの隙間で煙草を吸って帰った。すべての人生の体験が美しい。


(追記)
観てからしばらく経ったので、あらためて『瞳をとじて』についての特別な思いを書いておく。

「映画」で人生を呼び覚ますことによって本作は『ミツバチのささやき』についての批評となる。「瞳をとじて(Close your eyes)」というフレーズは喪失のメタファーなどではなく、あるものを想起させるための39年越しの魔法だ。

そして私にとっての(そして多くの観客もおそらくそうであるように)『ミツバチのささやき』は人生に色濃く結びついていて、現実の十数年もの時間が呼び覚まされる感覚になる。私が初めてエリセに触れたのは高校生の頃だった。エリセにとって、アナ・トレントにとって、観客にとっての時間の特別な共有があることを確かめるのに、この160分は十分すぎた。

複雑な気持ちがないわけではない。私はプリミティブな(そして神秘的な)体験として『ミツバチのささやき』が好きだったし、そこにはある意味で語りや批評を拒む強度があった。もちろん現実には多く批評されているが、したくない気持ちにさせられる作品という意味で。一方でこの映画は饒舌すぎる、技巧的すぎる…つまり批評的すぎる、という思いはある。しばらくは引きずりそうだ。
motoietchika

motoietchika