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哀れなるものたちのsilviawongのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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この映画を見るきっかけは、再生人間をテーマにするSFを久しぶりに鑑賞したかった。実際に見ると、科学的なファンタシーの描写より、フェミリズムや社会倫理の部分のほうが強かった。
 思われる通りに行動してほしいや、所有物として扱い、抑制される性意識、といた女性に対する因習への反発を中心で、人間の誕生と再生について、どこまで自由にできるか、合理的なのか、といた話題にも触れている。
 ストーリーだけでも話題性がいっぱいになりそうが、この映画に一番力を入れたのは豪華な美術制作。舞台から、衣装、音楽、撮影まで、すべて拘った。豪華と言って、珍しくないかもしれない。この映画の豪華は独特のセンスで今まであまり映画館で見れなかった感覚と思う。
 私はこの映画を見て最初の10分くらい、「あれ?もしかしてこれはホラー?」とずっと思った。ホラー映画に苦手だが、この映画は不気味と気持ち悪さを絶妙に表現した。あまりもセンスよくて、それが美しいとも感じた。古典美がありなから、その調和を崩れて意外性を持ち、非現実で挑発的、という感じ。
 

ベラという「女性」
 ベラが美人と思う人が多いかもしれないが、私は「女」より彼女は「ことものロボット」のような感覚だ。動きと思考回路も機械っぽい。しかし生物としての自由意思と成長性を持つ。不自然な作り方(再生された方法)の原因で、通常の人間性(主に社会性)が欠如しているかもしれない。科学者の教育(彼女の両親は冒険者)で、世界の未知に対して積極的に吸収して、挑戦していく性格が形成して行く。前世に旦那から受けられた虐待(禁錮、暴力)心理的トラウマがある。遺伝子の原因で暴力の傾向や性欲の解放に強烈な興味を持つ。また、弱者への正義感や子供への同情心もある。

ゴット(ゴドウィン・バクスター)という天才科学者
 幼少期から自分の体を機械のように実験して来た人間の構造に強烈な好奇心を持つ人間。名前通り神様ように人間の魂(脳)と身体を合体させて新たな生命を作り上げた。自分が創造した生命の人格形成と身体成長を観察することが大好き。ベラが離れると寂しくなって新たに別の生命体を作った。ある意味で最も支配欲が高い人だ。

衣装
 ヴィクトリア朝スタイルを現代風にアレンジした。複雑なディテールでエレガントに作られる豪華な貴族風服飾がほどんとだが、べらが冒険の旅に出るシーンで大胆な短パンやミニスカートも登場した。

舞台装置
 ゴットの家の設定は本当に素晴らしい。オレ・ウォルムの「驚異の部屋」を想起させた。その他、当時の貴族生活の礼儀や形にこだわる細部の描写も非常によかった。
基本的にインテリアの設置は全部よかったと感じたが、外部の建物や都市、風景はCGぽっく過ぎでイマイチだ。夢のような非現実な感覚を出したいと思うが、インテリア部分のディテールの数と比べられない。ギャップが大きくて違和感を感じた。

音楽
 ジャースキン・フェンドリックスの神秘的な音の編成がベラの驚かせる行為とピッタリマッチした。不調和音で遊んで大胆な現代音楽と思うが、儀式のように進行して古典的な気質も感じさせ、非常に魅力的だ。

撮影
 この映画の撮影は最初から最後まで広角レンズに拘った。とにかく強烈な変形や対比感によって非現実な世界観を作り上げた。
<魚眼レンズ
 冒頭の20分くらい科学者の家を4mmレンズで撮られた白黒映像は間違えなくこの映画の目玉。凝縮されて歪んだ世界観が最高だ。 
<フィルム
 高彩度、高対比度(明暗のコントラスト)への追求のため、35mm(通常映画用の16mm 本作のため特注された35mm)のコダック製エクタクローム リバーサルフィルムを使用。ロンドンでの雪シーンは印象的。色みの深さによって、より幻想的、神秘的なシーンが撮られた。
 この映画は「夢の原点(新たな誕生)」を象徴する白黒撮影から、「次々の旅」に彩色へ戻る。手法自体は珍しくないが、この映画は肉眼に自然に感じる色彩より、ほどんと不自然でオーバーな色彩表現に拘った。これもまた特独なセンスだ。

編成
<冒頭
絵画のような模様で白いシルク生地の刺繍キルトのディテール映像:女性(母性)、貴族を暗示
<エピソードの提示部
べらが次の旅の目的地への夢のような映像、CG風
<エンドロール
額装:文字を四角に一周回って並び、枠のように作られ。
絵画:映画に使われる装置の断片のディテールの写真、まるでルネサンスの油画のように見える。 

セックスシーン
 この映画はほどんと通篇で次々とセックスシーンが出てくる。べらが世界を認知するために次々に出る旅は、性の認識への旅と言っても過言ではない。これらのセックスシーンは正直、エロを感じない、全く感情を持たなく機械的な動きだ。しかし、二つの身体が快感と好奇心(人体への)が満たされる事実が伝われる。それでなぜかタイトルの「POOR THINGS」を思い出した。
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