金魚鉢

哀れなるものたちの金魚鉢のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.7
異物感を際立たせて不安を煽る演出と生々しいエログロ描写は監督らしさが光るが、話の筋はやや過去作とは違う転び方をしていき、よりアーティスティックに凝った画作りだった印象。"異常な支配下で育つ少女"にとどまらず美しくも残酷な外の世界を知ることでの成長譚が描かれていて、メッセージの伝え方にいつもより柔らかさを感じた。

まず、冒頭で顔面つぎはぎの歪んだウィレムデフォーが出てきた瞬間、期待が確信に変わった。お腹の中の子供の脳を母親の体に移植させて育てるという狂気の設定をオチではなく序盤に明かし、マッドサイエンティストぶりとエマ・ストーンの強烈な演技によって一気に世界観を構築していく。実際には見たことのない大人の体をした少女を、知的好奇心あふれる眼差し、周囲をまだ意識していない年頃の荒々しい所作で見事に演じきっていた。さらには、不快な間の音や気味悪ヒーリングミュージック、急にハイテンポな不協和音で拍車をかけるように感情を乱されるところまで完全にランディモスワールドでした。

新しさを感じたのは、外の世界の描き方と旅を始めてからの展開。白黒だった家での生活から一転、外の世界はSFのように近未来的・色鮮やかで衣装など含めて美術にかなり力が入っていた。これを観たとき感じた視覚的多幸感は、おそらく純粋なベラの視点で見た外の世界の鮮烈さに近いのだろうと思いながら観てました。また、自分だけの物差しを持つ衝動的で無垢な少女が、女性として扱われながらいきなり大人の世界に飛び込んで社会的な経験を積むという設定が他では見たことがなく面白かった。性的欲求や感情を抑えられず痛い目を見る流れかと思っていたら、次第に大胆不敵さに惚れた大人が敵わない独占欲に苦しみ振り回されるというまさかのそっちが哀れな展開。それどころか偏見の目を持たないベラが、貧困問題や男女の持つ権利の差を目の当たりにしたときの、彼女ならではな本質をつくような発言にはハッとさせられるような内容も幾つかありました。この世の常識など通用しない彼女の透明な価値観には、当たり前のことを変えてしまうほどのエネルギーがあって映像のみならず内容もかなり刺激的。このまま愛を知った少女のハートウォーミングな話として丸く収束させるのかと思ったら、最後にはしっかり元夫の脳にヤギぶち込んで庭で飼うという異常者プレイしてたので安心しました。
あと、途中のゴッドが食事中に口から泡発散する謎のシーン、シュール過ぎて普通に吹き出しました。
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