クロフネ

哀れなるものたちのクロフネのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.3
古くからある人造人間のお話を下敷きに描いた、フランケンシュタインであり鉄腕アトムであり、そしてアルジャーノンの物語。そういったオマージュの対象がさまざま思い浮かぶなかで、類似性を最も強く感じたのは、まったく関係ないですがメキシコの女性画家、フリーダ・カーロでした。
エマ・ストーンがこちらをじっと見つめるキービジュアルをはじめて見たとき、まず最初に思い浮かべたのが、太い眉が印象的なフリーダ・カーロの自画像でした。眼差しの強さとは異なり、どこか突き放したような表情がどちらの絵からも感じられたことを覚えています。
フリーダの自画像とどんな繋がりがあるのかまったく考えもしないまま今回スクリーンに向かったのですが、物語が進むにつれ、フランケンシュタインやアルジャーノンというよりは、この主人公ベラはフリーダそのものなんじゃないだろうかと思い始めました。といってもなにぶん私は、森村泰昌経由で彼女を知ったクチなので(笑)大した知識も持ち合わせていません。ただ、ベラの性に対する自由奔放な考え方をはじめグロテスクな残虐性やフェミニズム的志向など、フリーダ・カーロを思わせる特徴が少なからずそこかしこに感じられました。意のままにならない四肢や子どもを持てない身体というのも、フリーダと共通しています。
似ているからといって、だからどうという話ではありません。きっとそれを意図して製作されたのでもないでしょう。ただ、そういう類似性とともに好きな芸術家の影をこの作品のなかに少しだけでも感じられたことは、個人的に妙に腑に落ちたというかうれしかったのです。

ベラは幼児性を基にした快感原則に従って、暴力的な大胆さで世の中を渡っていきます。旅の途中で彼女はさまざまな人間たちと出会いますが、いちばん共感できたのは、豪華客船で出会った老婦人と黒人青年のカップルでした。進歩的でありかつモデレートな彼らの生活信条は、ベラばかりでなく私を説得するのに十分でした。ああいう年寄りになりたいです。

ところで、ときどき現れる魚眼レンズの視点は、いったい誰の視点なんでしょう。謎でした。
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