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無情の世界のnetfilmsのレビュー・感想・評価

無情の世界(2023年製作の映画)
3.8
 現代の憂鬱、日常生活の冒険をテーマに3人の若手作家(佐向大・山岸謙太郎・小村昌士)が監督した40分程度の中編を1本に纏めたものだが、作品のクオリティではやはり佐向大の1本目が頭一つ抜けているように思う。深夜のファミレス。殺人事件を引き起こしたユイとユウジはタランティーノの『パルプ・フィクション』のような対面で緊迫感のある会話を続けるのだが、ユウジよりもユイはサイコパス度強めで、彼がトイレに行った時から行動を開始する。ユリを演じる唐田えりかの復帰作で、もはや清純派だったかつての自分には戻れないし、戻る気もないと言った仕上がりで、太々しくしたたかな女を熱演している。いかにもファム・ファタール的なサイコパスが元カレと今カレと元カレの今の彼女との間をしたたかに翻弄するのだが、実は一番怖いのはユイが最初にファミレスで話し掛けたストーカーおじさんという設定で、とにかくどこに着地するのか一向に見当がつかないのが佐向大ワールドなのだが、ともすれば脚本をこねくり回す印象にも見える。それは2本目の山岸謙太郎も同様で、1本目も2本目もほとんどアンジャッシュの応答ミスのコントとほとんど変わらない。『エンタの神様』でアンジャッシュのやっていたコントの骨子は延々すれ違い続けるのに、なぜかほとんど応答している(繋がっている)という差異を違う人物設定でやっているのだが、あれはコントの型としては非常によく出来ていたのだ。

 ところが映画の脚本とコントとは似ているように見えてまったく違う芸術形態(芸術様式)だというのは私の肌感が察する持論で、何か明確な結論に達してはいないので大変申し訳ないのだが、三谷幸喜的な物語もバカリズムや劇団ひとりの映画的な宛て書きでさえもやはりコントの域を出ず、映画にはなり切れていないというのが私の偽らざる印象だ。1本目も2本目も正直言ってこのレベルならばテレビ東京の深夜ドラマでやれば良いと思う。ところが3本目の小村昌士の『あなたと私の2人だけの世界』だけは別で、出来が良いのは明らかに佐向大の『真夜中のキッス』なのだが、可能性を感じさせたのは断然『あなたと私の2人だけの世界』なのだ。雑居ビルの一室で開かれる二つのレッスン。一方は女性向けに痴漢や強盗から身を守る術を教える護身術スクール。もう一方は、奥手な男性向けの恋愛講座。単なるカルチャースクールの入れ替えなのだが、3年間恋人が出来ない恋愛講座の生徒が、極めて潔癖症的な男嫌いの女性に本気で恋をしてしまうというあまりにも痛い話で、あらためて恋愛の非対称性について考えさせられた。両方とも無意識の異性恐怖を有しており、どちらか一方が意を決してコミュニケーションを求めた時に悲劇が起きるという寸法で、この手の悲劇はどのような現場でも繰り返されているように思う。護身術スクールの先生にいざなわれた奥手の男が山に行き「あれ」をするという行為にもはや笑って良いのかあるいはとんでもないブラック・ジョークなのか真意はわからぬが、あの場面は明らかに北野武の海の映画『ソナチネ』への山からの返答だろう。クライマックスの夢診断のとち狂った応答にディスコミュニケーションの拡がる世界の縮図と小村昌士という作家の可能性を見た。
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