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マンティコア 怪物のnetfilmsのレビュー・感想・評価

マンティコア 怪物(2022年製作の映画)
4.3
 ジャニー喜田川の痛ましい事件を以てしても、ペドフィリアを持ちながら、性加害に加わらずにじっと身を屈めるように暮らしているいわゆるペドフィリア予備軍は恐らくこの世の中には無数にいるはずで、そのような人々はいつ起こるともわからない発作に苦しみながら、社会の一部として慎ましく暮らしている。人間には誰しも様々な特殊な性癖があるが、ペドフィリアは現在は精神疾患の一部と考えられており(一部で異論もある)、欲望を欲望のままに妄想するだけなら何も問題がない。主人公の空想のモンスターを生み出すゲームデザイナーという職業が何とも絶妙だ。ゲームの設定値は全てゲームデザイナーの表現の範疇で決まる。つまり世に出ているゲームは様々な法規制或いは表現規制をクリアしたものばかりで、実際にデザインした試作品ではもっと大胆で過激で暴力的な表現が幾つもまかり通る。性的思考や暴力における欲望はどこまで行っても果てしがない。

 監督のカルロス・ベルムトは映画の中で役者に言わせているが、デヴィッド・クローネンバーグの映画なんて全てが自身の性的思考であり、ポルノ的な何かに思える。キューブリックの遺作『アイズ・ワイド・シャット』も同様だろう。この辺りのことは来月公開予定のニナ・メンケス『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』でまた改めて取り上げたい。コロナ禍にリモートで誰とも接しなくなった主人公が見た隣部屋の火事によるショックは、VR用ゲーム制作で現実とバーチャルの境目を十分に理解しているはずの彼にとってもトリガーにもなり得る。また彼が出会ってしまうベリー・ショートな彼女も絶妙で、父の死に目に会えなかった悲劇を内包しながら進む。欲望は欲望のままで、妄想は妄想のままでいれば何も問題ないはずだが、欲望をひとたび行動に移せば犯罪になる。その薄皮一枚の葛藤を主人公は永遠に生きなければならない。今作にはショットと言えるようなショットが1つもなく、美的・芸術的にはほとんど共感しなかったのだが、物語の丁寧な叙述法にはかつて同じような欲望を映画の中で可視化したヒッチコックやブニュエルを彷彿とさせ、現代社会にあまりにも重く大きな矛盾を投げ掛けている。賛否両論起きるだろう相当な力作であるが、最後の10分は蛇足だった。
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