トランティニャン

アポカリプトのトランティニャンのレビュー・感想・評価

アポカリプト(2006年製作の映画)
4.0
2時間超、見終わって「ほふー」と息を吐いてしまった。
ご都合主義的なストーリーはともかくとして、メル・ギブソンのこの狂気じみた執念には恐れ入る。何を描きたいのか、何を見せたいのか、ブレが無さ過ぎるから。

キリストの受難を徹底的に描き、世界的な物議を醸した問題作『パッション』に続くこの『アポカリプト』は、針の穴を通すがごとき受難と幸運が連続するハリウッド王道ストーリーにあって、それとは本来決して相容れることの無い、口をあんぐりさせてしまうような異常な「こだわり」によって全編貫かれている。

無名のネイティヴ・アメリカンの役者たち、またも全編英語を排しマヤ語、当時の風俗をやれるだけ徹底的に再現した圧巻のヴィジュアル――ハリウッド大作にあるまじき「暴挙」を重ね、彼に大枚を持たせたらこんなことになりますを徹頭徹尾映像化した本作は、やはり蹂躙され滅び行く人々の鮮血と、そこに宿る最後の闘志にこだわった力作だった。

かれこれ4年前に『パッション』を見た時、これはキリスト教信者じゃない人にとっては「ドM(S)映画」だと思ったが、あれは内容云々というよりかはメル・ギブソンという男の手のつけられない性癖、変態性そのものなんだなと、本作を見ると思う。
戦闘シーンにおける陰惨な暴力描写はもちろんのことだが、生贄を捧げる儀式は現代人の想像を超えた展開ゆえ、人によってはここでリタイアしてしまうかも。スプラッタ・ホラー以外で、人間の肉体への畏れなど微塵も感じさせない残虐描写を前面に押し出しているのは、『北斗の拳』とメル・ギブソンぐらいだろう。

残念なことは、終盤の意外なまでのスケールの小ささ。元々『ブレイブハート』的な、虐げられた民族が一斉蜂起して体制に立ち向かうような大スペクタクルを想像していたせいもあるんだけど、いささか盛り上がりに欠けた。一切CGを使わず、肉体の躍動のみでアクションを演出しようとしたのには感服するけれども。