近本光司

地上の詩の近本光司のレビュー・感想・評価

地上の詩(2023年製作の映画)
4.0
現代のテヘランで公権力に翻弄される市井の人びとを描いたクロニクル。役所の係員から新生児の命名受理を拒否される父親。小学校の入学式に着るためのチャドルを嫌々試着する少女。男子といた姿を目撃され校長室で説教を受ける女生徒。車内でチャドルを脱いでいたかどで勾留される若い女。就職の面接であくどいセクハラに遭う女。工事現場の圧迫面接に疲弊する無職の男。身体中に彫ったタトゥーを見せろという辱めを受ける男。検閲で脚本を捻じ曲げられてゆく映画監督。理由もなく連行された愛犬を取り戻そうとする老婆。そのだれもが現代イランに蔓延る不条理に直面し、苛立ち、涙を呑む。11の定点ショットから構成される本作では「ビッグブラザー」の顔はいちどとて映されないままである(あるいは末尾の物言わぬ老人か)。そんなイランの現実を告発する本作の監督もまた国外追放の憂き目に遭ってしまったという。そんな世界はぶち壊すしかない、というメッセージも十分納得がいく。そうなのだ、ぶち壊すしかないのだ!