生き難い世の中を
したたかに、美しく
生き抜こうとする姉弟。
黒川博行原作の重厚な傑作小説を監督原田眞人、安藤サクラ・山田涼介主演で映画化。
大阪で特殊詐欺集団の一員として受け子の差配をするネリ(安藤サクラ)。ある日、出所したばかりの弟ジョー(山田涼介)がヤクザ相手にトラブルを起こし彼女も巻き込まれてしまう。姉弟が向かう先は"天国"か、"地獄"か—— 。
俗に言う"オレオレ詐欺"の裏側。
受け子と呼ばれる者達に同伴し、計画をそのまま実行するのか、はたまた警察の匂いを嗅ぎ取り中止にするのかを即座に判断しサインを送る"三塁コーチ"と呼ばれる立場にあるネリ。彼女は生活保護で暮らす男達の世話もし、半グレや元ヤクザ達からの信頼も厚い。そして、ネリのボスである高城(生瀬勝久)、更にその元締めがいて…。
誤解を恐れずに言えば、この裏社会を覗き込み、その構成を知る事がめちゃんこ面白い。
舞台は大阪、西成のあいりん地区や難波の繁華街。昔、難波で営業していた頃は、西成に一歩踏み込んだ時にただならぬ空気感を実感した事があるから、そのヤバさは画面越しでもビシビシ伝わる。
安藤サクラの存在感が光る。壮絶な半生を送ってきたネリの芯の通った強さをサラリと自然に演じる力は流石の一言。
ネリとは血の繋がらない弟、ジョーを演じる山田涼介。決して上手とまではいかないが、美しい御尊顔はやはり映画としては映えるものがある。
もう1人、唯一無二の曼荼羅というキャラクターを演じた宇崎竜童がまたカッコ良いのだ。ストーリーを追う毎に違った顔を覗かせる実に魅力的なキャラクターだった。
慎重で計算高い姉に対して、直上的で無鉄砲な弟。血は繋がらずとも放ってはおけない姉と、そんな彼女を見透かすように困れば甘えて頼ってくる弟。弟が引き起こしたトラブルに巻き込まれ、出るわ出るわ裏社会のヤバい人達が。
疾走感溢れる展開に惹き止まれ、豪華キャストが織りなす演技と演技のアンサンブルは見応え十分。
果たして
逃げ切れるのか、ネリ。
僕らが知らないだけで、一歩裏手の路地を歩けば、こんな世界が広がっているのかも知れない。そこで生き抜こうとする彼らをこんなにも魅力的に描き切った監督の手腕に感心した。「ヘルドッグス」「燃えよ剣」「検察側の罪人」「クライマーズ・ハイ」を手掛けてきた原田眞人とは個人的に相性が良い。
原作では、ネリは男性キャラだったらしいのが興味深い。映画化にあたっての性転換は成功と言えるだろう。惜しむらくはせっかく安藤サクラと顔が似ている江口のりこをキャスティングしているのだから、2人の直接対決を見せて欲しかった。
あ、あとめちゃんこチョイ役で岡田くんが出てるやないかーい!山田くんの全裸(後ろ姿)も見れるし、某事務所(今の会社名何だっけ?)ファンは必見。
ラストシーンで空が白む大阪の街を颯爽と駆けて行くネリの姿には胸が空く思いがした。