雑記猫

ザ・クリエイター/創造者の雑記猫のレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
2.8
 AIを搭載したアンドロイドが広く普及した世界。アメリカ政府はAIを危険視し掃討しようとする一方、ニューアジアと呼ばれるアジア諸国はAIを匿う姿勢を見せ、世界は対立の様相を呈していた。ニューアジアへの潜入捜査の失敗により妻マヤを失った元捜査官のジョシュアは、マヤがまだ生きていることを知らされ、彼女を探すためにニューアジアが開発した新兵器アルファOを破壊する任務に参加する。兵器の保管施設に潜入したジョシュアはアルファOを発見するが、その実体は幼い少女の姿をした人型AIであった。


 ストーリーラインはかなりシンプルで、自暴自棄だった男が少女との逃避行を経て父性を獲得するという筋書き。とはいえ、この少女が実はAI搭載アンドロイドだったりと当然ながら、本作ならではの捻りが用意されている。しかし、このモチーフを通して、人とAIとの未来予想などといった深いAI論考が繰り広げられるのかと言われるとそういうわけでもない。というより、本作においてAIが登場する必然性はというと、アメリカとアジアの対立という世界観の設定と、ヒロインのアルフィーが超常的な能力を使える理由づけの2点くらいなもので、作品全体で見ると、AI搭載アンドロイドたちは、人と同じように寝るわ、食べるわ、迂闊なミスはするわと、ほとんど人間と変わらない。ではなぜ、本作ではわざわざAIという題材が描かれているかと言うと、「ほ〜ら見て〜、前から見ると人と全然変わらないのに、横から見ると頭の真ん中にこんな大きな穴が空いてるんだ!クールだろ〜」とか「首から下は人と変わらない感じだけど、頭部は無骨な円盤型のアンドロイドだぜ、たまらんだろ?」といった感じの物語上の要請とはほぼ無関係の、監督のフェティッシュの発露によるものと思われる。さらにそこに西洋文化圏から見た”オリエンタル憧れ”のようなものが混ぜ込まれ、本作は制作されている。


 こういった具合で、本作は物語自体を楽しむというよりも、この作品の雰囲気を楽しむ由緒正しき”雰囲気映画”である。そのうえ、作品全体の脚本もひたすら主人公たちとAIがアメリカ政府に虐げられ虐げられ、最後の最後で大逆転の一発をかます構成になっているため、言ってしまえば、最終盤までほとんど物語が動かない。となると、いよいよ、この「ロボットフェチ+オリエンタル憧れ」という雰囲気に乗れるか乗れないかに評価がかかっている。その点で言うと、日本人観客が鑑賞する場合、とんちき日本語描写や一人だけ日本語で喋りまくる渡辺謙が間違いなくノイズになり、ところどころで現実に引き戻されてしまうのが残念なところである。個人的には本作の雰囲気は割と楽しむことが出来たし、クライマックスの逆転展開のテンポの良さと勢いが痛快だったので、嫌いではない作品である。
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