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怪物の木こりのRのネタバレレビュー・内容・結末

怪物の木こり(2023年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2023年の日本の作品。

監督は「十三人の刺客」の三池崇史。

あらすじ

巷では絵本「怪物の木こり」に登場する怪物の仮面を被った殺人鬼が斧で頭を割って脳を奪い去るという猟奇殺人事件が連続発生していた。その殺人鬼が次の標的として狙いを定めたのは天才弁護士、二宮彰(亀梨和也「事故物件 怖い間取り」)だったのだが、彼は殺人鬼を上回る狂気じみたサイコパスだった!

年の暮れも押し迫った12月、個人的に何気に楽しみにしていた本作。あの「バイオレンスの巨匠」三池崇史の最新作にして、内容的にもかなり興味を惹かれるものだったので、指定休の今日少し遅れて鑑賞!

結論から言えば、なんだかんだ三池監督作だから楽しめるかと思ったんだけど…うーん、微妙な作品でした。

お話はあらすじの通り、猟奇殺人鬼ものなんだけど、特筆すべきは狙われる被害者の1人にして主人公が「サイコパス」だという点!

サイコパスというと、その特徴的な性質から現実だと関わりになりたくはない存在だけど、一方どこか「相容れない存在としての"憧れ"」が誰しもがあって、こと創作物に関しては感情のないクールなニヒリストとしてのキャラクター造形として悪役だけでなく、主人公キャラとして配置する作品をメディア問わず数多くある(特に近年)。

で、今作もそんな主人公がサイコパス作品の系譜の一つなんだけど、なるほど主人公であるサイコパス弁護士、二宮彰を演じた亀梨くんは確かにハマり役。元々その切長で鋭い目つきが特徴的だからか、クールな役回りも多い彼だけど、今作では年齢を重ねて更に厚みを増した演技で人を人とは思わないサイコパスをまさに好演。特に序盤の頭文字D的なカーチェイスシーンからの急に車道に仁王立ちしてからの標的に対する「今は煽り運転も多いからね、ドライブレコーダーくらいつけとかないと」と優しくアドバイスした後にガラス片で喉をなんの躊躇もなしに切り裂くところとかよかった。また、ルックも終始忌々しげな表情とアシメ風の前髪垂らしの小綺麗な髪型や高級感溢れるスーツ姿とか全体的にスタイリッシュ。

で、そんな亀梨くん演じる二宮と対峙する「怪物の木こり」。どうやら作中のオリジナルの絵本をもとにした(実写版の劇中での監督がティム・バートンならぬティルム・バートンという悪ふざけ笑)、殺人鬼なんだけど、やはり特徴的なのはそのマスク。木こりというにはあまりにも人間離れしたカラーリングの顔面に「怪物」と呼ぶに似つかわしい、互い違いに眼窩から飛び出したギョロついた目玉、まさに一度観たら忘れられないほど怖いマスクで、木こりの道具である斧を振り回して攻撃する様はジェーソンとかマイケル・マイヤーズなどの映画における殺人鬼の日本版という感じ。

そのやり口も、殺した相手の脳を持ち去るという、劇中では「脳泥棒」と揶揄されるほど猟奇的な手口なんだけど…その点に関しては後述。

で、二宮以外のキャストも結構豪華なんだけど、個人的に良かったのはやっぱり、二宮の旧友にして、同じくサイコパスな医者、杉谷九郎を演じた染谷将太(「ほつれる」)。この手の映画における、染谷君のおはことも呼べる全く人間としての暖かみを感じさせない無機質さが程よくて、主役である亀梨くんを食うか食わないかのギリギリの境目で存在感を発揮。やっぱ染谷将太はこういうサイコなキャラクターが本当に似合うよなぁ…。

あと、菜々緒(「劇場版 東京MER 走る緊急救命室」)も他の作品でのクール美人な菜々緒ではなく、伊達メガネで髪も束ねずにちょいボサボサな感じのロングヘアーという外見も、仕事一筋なんだろうなぁというバックボーンが感じられて今までにないキャリアウーマン像でなんか新鮮だった。

そんな感じでキャスト陣はあまりキャラクターが多くないという点を除いて概ねよかったんだけど、お話的にはあらすじのインパクトに反して、意外にも地味というか大人しめというか…。

まず、最大の不満点がグロ描写ね。怪物の木こりの事件被害者たちがみんな脳を抜き取られてるというから、そこら辺期待して観に行ったら、PG12という点で不安に感じていた点が的中。直接的な描写がほとんどない!!序盤の、こういうミステリーにはつきものの事件の捜査会議でそれまでの第一、第二の殺人の現場写真が映されるんだけど、血糊はめちゃくちゃ散乱していて、遠目では脳漿も飛び散ってる感じは見受けられるんだけど、くり抜かれた頭部とかは全然映されない。その後も第三、第四の殺人も起こるんだけど、酷い時は遺体を見る菜々緒やそれ以外の警察の「うわっ…」ていうリアクションのみ…いやいや!!これは割りかし大々的な宣伝の売り出し方もあって、少しでもレーティングを下げて客層を拡大しようと画策した結果なのかもしれないが(特にビッグバジェットの「雇われ監督」としての作品も多い三池監督、こういうレーティングのせめぎ合いはお手のものなのかもしれないが)、やっぱこういうのはレーティングを上げてでも気合い入れてやってほしかったなぁ!特に「バイオレンス」に定評がある三池監督に配給も頼んだんだから、ここは主演が「ジャニーズ」の亀梨くんで、今絶賛ゴタゴタなジャニーズ(現SMILE UP)にどれほどの「権限」があるかわからないけど思いっきりやってほしかった。もう言っちゃえばそれに尽きる。

だから、もう後半にかけてどんどん事件が矮小化されていって「こんな残虐な手口の犯人の正体ってどんなん!?」っていう観客の興味の持続もそれに伴ってみるみる落ちていく。

あと、怪物の木こり自体も木こりという設定から腕力を生かしたパワープレイを期待するも、あるのは最初の二宮との対峙での斧ぶん投げくらいで、あとはただ斧ブンブンしてるだけ。実力的にも殺人鬼の中ではジェーソンというよりもスクリームっぽくて割と二宮にも苦戦しちゃってる。すなわちそれほど脅威に感じないので、せっかくの「殺人鬼vsサイコパス」という舞台立ての構図が作りにくく、そのままクライマックスまでいっちゃう。

あと、結局木こりと犠牲者ならびに二宮との共通点として「脳チップ」を埋め込まれたからっていう背景がわかってくるんだけど、これも後半にかけてどんどん木こり側に同情したくなる悲しい理由がわかってきて、作品としての矮小化に拍車をかけちゃってる。もっと快楽殺人的に犯人に同情の余地なしな感じの方がこちら側としてもノリ切れるんだけども…。

最終面での木こりと二宮の直接対決も、犯人の正体自体は、まぁ考えればキャラも少ないし、わかるかわからないかの瀬戸際での意外性があって良かったし(ただ、まぁ配役見ればお察し)、それまで木こりとの初対面時に脳チップが壊れたことで徐々に人格を取り戻しつつあった二宮が「サイコしか殺せない」という木こりの弱点をついて、ヒロイン映美(吉岡里帆「ゆとりですがなにか インターナショナル」)を木こりに対して人質にとるという「サイコとしての名誉挽回」的な立ち回りも良かったんだけど、なーんかそれまでも微妙だからか薄味というかクライマックスにしてはもっとエクストリームな対決が見れると思っていただけに残念極まりない。

あと、映美が犯人との攻防で柱に頭をぶつけるっていう思わせぶりなショットがあって、そもそも犯人も頭をぶつけて脳チップが壊れた(つか、そんな簡単に人格ってコロコロ変わって良いんか?っていうツッコミがあるわけだが)ことによる「人格変容」が動機なわけだから、その逆も然りで、ラストに映美が「サイコ」になる的な展開を期待したんだけど、それもなく普通に二宮が刺されて終わるという…うーん、最後に「怪物(サイコ)」だった二宮が「木こり(人間)」としての道を選んだ最期と観ると美しいとは思うけど、それにしてもお粗末な終わり方に感じてしまったなぁ。

絵本が伝えたかったメッセージもあんまり作品を通して伝わってこなかったし。

つーわけで、こういうのは後々配信で見返すことも多いくらい個人的には大好きなジャンルなんだけど、にしては微妙すぎる作品でした…。

このモヤモヤを同じ殺人鬼もので、グロ描写にも定評のあるイーライ・ロスの最新作「サンクスギビング」で払拭できることを期待したい。
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