社会のダストダス

リアリティの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

リアリティ(2023年製作の映画)
4.5
パンフレットのデザインが機密文書みたいで面白い。これ持ってアメリカに入国しようとしたら空港で拘束されそう。今年観た作品の中での変な映画部門でいえば、現状大賞を狙える位置にいる。実話に基づきながら実験的な試みが垣間見える、それでいて題材はなかなか命知らず(笑)まあ、アメリカらしいともいえる。

【●●●の●●●●による●●●●●●●●●●●●●に関する報告書】をメディアにリークした罪でFBIに逮捕された女性と捜査官による、実際のFBI尋問録音記録に基づく映画。

2017年6月、アメリカ国家安全保障局に勤める若い女性リアリティ・ウィナーは買い物から帰宅すると見知らぬ男性二人から声を掛けられる。FBIを名乗る彼らは、ある事件に関する捜査を行っていてリアリティにも関わることだという。何気ない質問を繰り返す彼らだが、内容は徐々に核心に近付いていく。

ハリウッド若手女優随一のロケットおっぱいを誇るシドニー・スイーニーが主演。持ち味の不安げなしかめっ面が本作の作風では大活躍、これだけ動きの少ない映画の中で、もはや視覚効果の役割を果たしている。FBI捜査官の白人のほうは見覚えがあったが、『エイス・グレード』や『明日への地図を探して』でお父さん役で出ているジョシュ・ハミルトンだった。

リアリティ・ウィナーという人物を題材にした映画としてもう一つ『CODA』のエミリア・ジョーンズちゃん主演の『Winner(原題)』というものが公開予定らしく、そちらはブラックなコメディ色のある伝記モノとのことで気になっている。タイトルを二つ繋げると当事者の氏名リアリティ・ウィナーになるのは示し合わせたかのよう。

本作の特徴は実際のFBIの録音記録を一語一句再現してるらしいというところ、そんなものが手に入るのって大丈夫なの?(笑)。会話中に噛んだりや咳払いなども完全コピーというのは中々斬新な試み。基本的に会話のキャッチボールのある登場人物は3人だけで、舞台もほとんどが殺風景な狭い部屋。

息が詰まるような会話がずっと続くが殺伐とはしない。捜査官2人はそれぞれ役割があるようにも感じさせるけど、どちらも物腰は柔らかい。しかし玄関先での会話が自然な流れで場所を屋内に移し、どこからともなく待機していた鑑識がわらわらと集まってくるのは、まるでぼったくりの風俗店の手口みたいで狡猾。刑事と詐欺師は紙一重だ。

捜査内容の核心に迫る内容の台詞を話すと登場人物と音声が消えてしまうという演出は政治の圧力を表しているようで、大事な部分を抜き取ったら退屈な世間話しかないのに、あえて名指しせず伏せているところが逆にブラックなジョークというか、社会風刺的な意図を感じさせる。

本作の内容とは少し脱線だけど、今現在もイスラエルの問題などでの発言をしたためにハリウッドで作品を降ろされてしまうニュースが出たり(楽しみにしていた作品があり超ショック)、支持不支持の立場を明らかにせず黙っていても、それをSNSで叩かれたりと政治家でも活動家でもない人たちに何でわざわざ巻き込むような真似をするのかなど、日本とはまた異なるアメリカのエンタメ業界の体質はちょっとよく分からないところが多い。

本作は事件当日のみの再現VTRのような内容だけど、リアリティ・ウィナーという人物については多言語が話せて、犬と猫を飼ってて、ナウシカとピカチュウが好きくらいの事しか分からなかったので、事件の動機については何でだろ?という疑問は残った。そのうち上映されるであろうエミリアちゃん主演の『Winner』を楽しみに待ちたい。監督が『ブックスマート』とかの脚本家だから案外キラキラ☆彡ムービーになるかもしれんが。