米国のとあるさびれた田舎町。10月の終わりを迎えて、ハロウィンの季節。
8才のピーターは内向的な性格で。友達もおらず、学校では孤立している。
古い家で両親と3人で暮らしているのだが、過保護で閉鎖的。
トリック・オア・トリートに出かけたいが、過去の失踪事件を理由に外出も許されない。
深夜1時45分。
子供部屋の壁を叩く音が聞こえて、ピーターは目を覚ました。
監督は、サミュエル・ボダン。
脚本は、クリス・トーマス・デブリン。
2023年に公開されたホラー映画です。
【主な登場人物】🏡🕷️
[キャロル]母。
[サラ]少女。
[ディヴァイン]代理教師。
[ピーター]主人公。
[ブライアン]いじめっ子。
[マーク]父。
【概要から感想へ】🍭🥧
配給会社は、ライオンズゲート・フィルムズ。
ボダン監督は、詳細不明の若い白人男性。
米国での初仕事であり、おそらくフランス人。
テレビで働いてきた人で、日本でもNetflixのホラーシリーズ『マリアンヌ -呪われた物語-』が観られます。
典型的なオタクの優しそうなお兄ちゃん風。
今回が長編映画監督デビュー作です。
脚本のデブリンは詳細不明の中年男性。
(ヒスパニック系に見えるけど分からない)
2022年に公開されて酷評された『悪魔のいけにえ レザーフェイス・リターンズ』の人。
今回が2作目です。
子持ちのリア充。髭面で30代ぐらい。
ナイスガイ風の見た目だが、脚本の中身はどろどろの暗黒。
業界が注目する脚本、ブラックリストの2018年に選ばれている。
タイトルを直訳すると「蜘蛛の巣」
オタク監督が一目ぼれした、リア充とのコラボ企画は、
1ヶ月遅れのハロウィン映画。ぴったりの季節にレンタルがやってきたから、レビューが遅れるのは仕方ない。
🕸️〈序盤〉👟🎃
よくあるジャンプスケアの連発で、「掴みはOK」の暗い映像。普段だと離脱確定フラグが立つのだが、1幕の終わり辺りで「あ、ハウスホラーだ」と分かって急に興味が沸く。
(ただの癖)
苛めっ子。
「こういう子いたなぁ」と小学校低学年の記憶が蘇った。
新しい靴を買ってもらい、登校した日。嫉妬したのか「まず踏んで汚さないといけないんだよ」と足ごと踏みまくられて、泥だらけにされた。
いま冷静に振り返ると、ド畜生だと思うけど、当時は無。何も感じていなかった。
本作を通して記憶が改ざんされて、
「あいつ許さねぇ」と黒い感情が沸き上がってくるから悪影響。
にしても暗い性格。
恨みを晴らすために仕事をしているなんて、どれだけ執着心が強いのだろう。
🕸️〈中盤〉🍪🕯️
両親のもたらす恐怖。
学校では苛め。家では過保護で、ピーターの理解者は、「頭の中でささやく少女」のみ。
いまどき両親揃って怖いのも珍しい。
ひさしぶりにジャンプスケアでドキッとした。血が繋がっているから、身近に感じられて恐怖が増す。
(子供にとっては、お母さんに怒られるのが1番怖い)
ツイストによって、少女の秘密がわかりはじめる。
ドラマ色が濃く、高い緊張感がつづくので、つい腹筋に力が入ってしまう。
重苦しくて集中力が研ぎ澄まされる。
🕸️〈終盤〉🛋️🤡
綺麗に伏線回収されて、3幕を盛り上げてくれる。
黒い妄想が先へさきへと進むので、精神が病んでいる人の頭を覗いたような気分に。
たまには暗い人の話を聞くのも悪くない。
例えるなら、超常現象が起きる刻命館。ホラーにぴったりの面子に胸が躍る。
ただ、急に娯楽映画。
メッセージ性も薄く、ここに来て、幸せそうな作家の家族写真が脳裏をかすめる。
物足りなさの理由な気がした。
【映画を振り返って】🏚️👻
教育方針の気持ち悪さを脚本にしておきながら、子供が2人いて夫婦円満なのが不思議。
自分の人生を切り売りするのがクリエーターだから、家族には忍耐力が求められる。
(ご苦労さま)
その分、よどんだ人間性と、過去の体験のようなリアリティがあるので、馴染み深い嫌な気分が味わえる。
(シャイニングに近いのか)
アートを想像させる地味な見た目と裏腹に、秘密の解明や、新キャラの追加など飽きさせないための工夫がしてある。
最近のスローバーンが好きな人だと気に入ると思うけど、
考えてみれば、日本人だと出会う機会が少ない。
往年のスプラッターを好むファンは多いのだが。
シェア自体が縮小傾向にあるのかも。
👀干渉。
子供への過干渉がトラブルの原因だが、
救済者もまた、外部から家庭への干渉によって現れる。
善と悪が表と裏の関係にあり、どちらも作家個人の狭い価値観から沸いているから、
――両方とも気持ち悪い。
パパの「どんな親でも過保護になる」は名言。
自分の意見を通したい時に限り、「人って」のように一般論にする奴は大体信用できない。
ただ、現実での「生活指導員の協力によって救われました」のような、希望的なエピソードが語られれば、一気に深みが増すプロットではある。
🎭光と影。
幼いピーターのイマジナリーフレンドが影を担当。
両親への本当の気持ちを代弁してくれる。
心理学の世界でもそうだが、
通常、蜘蛛は恐ろしい女性の象徴として表の世界に立ち現れる。
貴志祐介の原作である『黒い家』が分かりやすい。
(こちらもハウスホラー。家に吸い込まれるから、女性の象徴なのかも)
ピーターの、蜘蛛を友人として受け入れる心の広さが魅力的。
ホラー版『ブルー きみは大丈夫』
この発想はまったくなかったので驚かされた。
🎃カボチャの家。
劇中では児童虐待が扱われているが、監督によれば、グリム童話のようなおとぎ話を目指したのだとか。
最後まで繊細な気遣いで制御されているので、
胸クソもなければ、大量の出血もなく、気軽に楽しめる。
批評家より、一般の評価が高いのは、監督がテレビ出身で、視聴者からのフィードバックに晒されてきた経験が影響しているのだろう。
脚本家の話だと、子供の頃、ベッドに入った後に壁を叩かれる音が怖かったらしい。
(もし子供時代に隣の部屋で暴れている人がいたら、そりゃねぇ)
黒い家もそうだけど、恐ろしい女性を描くのは興味惹かれているからでもある。
学校にも自宅にも居場所がなければ、なおさら魅力的に映るだろう。
蜘蛛の巣に絡めとられた少年の夢。
子供たちが近所の家々を回るハロウィンの季節にはぴったりの題材かもしれない。