くさむすび

貴公子のくさむすびのネタバレレビュー・内容・結末

貴公子(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

パク・フンジョンは『THE WITCH』とかじゃなくて、一生ノワールを撮り続けてほしい。ここ数年の韓国ノワールでは断トツで1位。僕が考える傑作韓国ノワールに揃っている3つの要件①ドラマの面白さ②血生臭さ③追いかけっこの楽しさ、の全て揃っていて好きだった。2010年代に乱発していた傑作韓国ノワールの雰囲気がありながらも、近年の韓国映画でよく見られるストーリーの予測不能さが合わさっており、不易流行な感じが素晴らしい。それでいて、普通の韓国映画なら感動路線に持っていきそうな所をユーモラスな軽いムードで完結させるのは時代に逆行しているし、そこが余計にこの映画を好きにさせる。
序盤低調なのが今作唯一の欠点と言っても過言ではないが、飛行機で貴公子が話しかけるシーンから謎が深まり、そこからは観客もボクサーのマルコと同じように訳も分からず振り回される。よく分からなくても、逃げる/追うの関係だけは明確だから見ててしっかり楽しめる。謎が解明され、マルコは結局どう転んでも死ぬ運命にある不憫な人間であることが分かるも、結局はそもそも血筋じゃないから生きて助かるオチだったり、貴公子もガンかと思ったらただの禁煙の離脱症状だったとか、その辺は三池崇史の『初恋』を想起した。「散々振り回しておいた仕打ちがこの軽さかよ」、みたいな感じが先ほども書いたけど感動に寄りすぎている最近の韓国映画に対するアンチテーゼみたいに思えるし、自分はそういう感動ムーブに辟易していた部分もあったので気持ちよかった。
アクションもカーチェイス、住宅街での追いかけっこ、今作の白眉である手術室での貴公子無双シーン。どれも最高。『新しき世界』のエレベーター格闘や『アシュラ』のカーチェイス&葬儀場での死闘など、2010年代の韓国ノワールにあったキレを感じた。
とにかく、自分のような過去の韓国ノワールの幻影を追いかけてる人間にはピタッとハマる映画。
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