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プリシラのkeeeeetのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
4.0
2024
31/100

飛び続けるしかなかったキングオブロックンロール。その妻の歴史。スターが一世を風靡している裏側の日々が描かれるので、物語としては地味で平坦なのは否めないがオースティン・バトラー主演の『エルヴィス』のB面だと思って楽しんだ。(夫婦でいう妻が添え物といっているわけではなく華やかな表舞台の一方で、という意味で)

めっちゃバカみたいな感想になるがケイリー・スピーニーが可愛すぎる。こんなん好きになるじゃん。
序盤で好きなのはエルヴィスと初めて部屋で二人きりの時間を過ごすシーン。「帰る時間だおチビちゃん」とお開きを宣言しているのにお互い指をずっと絡ませている。この指の感じが良い。ぎゅっとしているわけではなく、文字通り手探り感があってちゃんとドキドキする。
その後の学校でニンマリするのを押し殺している感じも良い。
エルヴィスの指示で黒髪にするが「これじゃない感」が凄まじい。髪のボリュームも相まってかなり頭が重く見える。小柄な彼女とミスマッチ過ぎて「戻せ」というか、「返せ」という気持ちになった。
エルヴィスの名前を使ってカンニングするところも好き。彼女なりに立場を利用して強かに立ち回っているのが単なるピュアな少女に収まらない図太さを感じさせる。授業態度はずーっと悪い。
ファッションやヘアメイクもエルヴィスに魔改造されるまでオシャレで可愛いが一番好きなのは空手の道着姿だったりする。

要所要所のカップル冷めてくあるあるみたいなのは共感性が高くて面白い、かつ複雑な気持ちになる。
最初はただ喋るだけで楽しかったはずなのに、次第に話題が興味もない「仕事の愚痴」になるとリアクションに困るし冷めるのが分かる。
枕ぶつけ合いから険悪ムードになるのはしょうもなさすぎて笑いそうになった。数秒前まであんなに楽しかったのに…
「家の火は消えかかってるから誰か薪を焚べないと」的なことを言うプリシラに対して「俺みたいな台詞だ」というエルヴィスの台詞、これが個人的に一番気持ち悪かった。もうこの女は染め切りましたよ、と言っているみたいだった。「短気は母に似た」とか「電話するときは家にいろ」みたいな言い訳や支配欲を隠そうとしない台詞より嫌だった。
本作の描写を素直に受け取るならエルヴィスにとってプリシラは孤独を埋める着せ替え人形だがこれをもってじゃあエルヴィスは精神的に弱い人間なんだね、とはあまり言いたくはない。なぜなら彼は言うに及ばずスーパースターであり凡人とは立っている舞台、戦っている世界がまるで違う。想像を絶するプレッシャーとストレスの中で壊れずにやっていく方が無理だ。バイトを許さないほどプリシラを支配したい彼もまたパーカー大佐のコントロール下にあり様々な制約の中で本当の自由はない。憧れの役者のキャリアもパッとせずフラストレーションが溜まるのも分かる。時代が時代だし薬に頼ってしまうのは致し方ないのかな…と思ってしまう。その代わり酒に全く溺れないのは好感が持てるし浪費癖や生活態度はともかく本質として真面目な性格なのは感じ取れる。独占欲の一方でプリシラに対し禁欲的なあたりも。

ラストはびっくりした。ここで切るかって感じで。エルヴィスが死んだあとのリアクションなどを山場として用意できそうだが、あくまで愛する人との決別をゴールとして設定しているのが潔くて素晴らしい。エンディングはドリーパートンの『I Will Always Love You』。久々に正しい解釈でこの曲が使われているのが嬉しくなった。(なぜかカップルが結ばれたときのBGMにさせられがちだったから)

広報も映画の一部に違いないので無意味でも素人ながらそこには触れてみたい。なぜなら作品の出来に関わらず客入りはガラガラだろうなと確信していたから。そしたら案の定マジでガッラガラだった。ティーン女子の感想こそ聞きたいけどなーと思いつつ宣伝の仕方は相当難しかったんだろうなと思う。
何を餌に客を釣るかが宣伝に置いて重要だと思うが本作の主人公「プリシラ」自身の知名度は日本じゃたかが知れており当然集客力も無い。ソフィア・コッポラ監督も映画業界内やファッション業界内のネームバリューはあるだろうが、無関係の層には誰?レベルだろう。自分も正直コッポラファミリーのお嬢で『ロストイン〜』が代表作っすか?くらいの知識で特に思い入れは無い。じゃあやっぱり看板としてデカいのは「エルヴィス・プレスリー」になる。(それすら若い人がどこまで知っているか…)だがポスターや予告でもデカデカとエルヴィスの名前を押し出しているわけではない。なら悪いけど本作にそれ以上強いフックはねえよ、客足が見込め無さそうな作品でも頑張って上映してくれるミニシアターがあるのだから、そこは多少なりふり構わず「あのエルヴィスの〜」としつこく言っていこうぜ、とは思う。それが出来ない背景があるのならもう仕方ない。仕方はないが、かといって客の口コミで広がるようなタイプでもないのがもどかしい。
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