でぃぐどりお

月のでぃぐどりおのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
5.0
とんでもない映画を観てしまった。
エンドロール後の静寂と
周りのお客さんの硬直が
どれほど鬱々しい作品だったか
表現していた。
そして、一緒に見に行った友人とは
「こくり」とだけ頷き、席を渋々立った。
気分が悪い。ものすごく悪い。
フォーカスする部分が多すぎる。
どこを切り取っても重すぎる。
明日平日を控えている人間が観る
映画じゃない。
一人で見たら一生後悔してただろうな。

まずこの映画に出演する事を決めた
俳優、女優さんに感謝の意を表したい。
そして、「湯を沸かすほどの熱い愛」の
夫婦役がまたこの作品でも見れて
最高でした。
実際に起こった事件をモチーフとは
聞いていて、当時ニュースも見ていた事から
忌まわしい殺傷事件だった事は覚えている。
犯人のあの不敵な笑みも
脳裏に焼き付いている。
とは言え殆ど前情報無しで鑑賞したが
観ていく内に、割と自分の境遇に
遠くはない事に気づき恐怖感を抱き始める。
実際に自分自身も重度障害者施設の
現場を体験した事もあり
何となくではあるが、現場の雰囲気
におい、音を感じ取ることができた。
映画が進むにつれ、「嘘」と「真実」の
二極性がテーマにあると分かる。
黒か白か、善か悪か、ゼロから全部か
敵か味方か。そんな事をぐるぐると
考えながら見ていた。
当事者は、嘘を嫌い、真実を求める考えを
もつ人間だと主張するが
「障害者を自分の言いなりにさせ
虐待、不必要な隔離をし、それを隠蔽
しようとする施設」
「障害者を救おう!なんて無責任な言葉だけを
述べる法人」
「障害を持つ子どもが生まれる恐れがある為
下ろそうと考えている」
「不必要な人間を海へ落とす描写が
含まれている作品で賞を取る」
「嘘を嫌う人間がいざ命を引き換えにすると
平気で嘘を言ってしまう」
当事者自身が気付かぬ内にこれは
「取り繕っていて」つまりこれは全て「嘘」を
放ってしまっていると分かる。
この映画でいう「真実」を追い求めているのは、ただ一人、「殺人犯」だけなのでは?
私自身、真実であるはずがないことを
真実だと錯覚してしまっているのであった。
人を殺める行為の意味
そんなものに意味はないと分かっていても
意味を見出してしまう。
肯定的になってしまっているのか‥
そんな自分も許せなくなり、
只々、感情を閉じ込めてしまい
気分だけ悪くなっていった。
生きる上である程度嘘は必要なんだと
感じた。
生きる上で意味なんてない。
人間はそこにただ存在している。
そんな生きる哲学みたいなものも
考えさせられる映画だった。
冒頭で
「かつて起こったことはこれからも起こる」
なんてメッセージを耳にして
始まっていたことを思い出してしまった。
物事にオリジナルは存在しない。
でもこれは二度と繰り返してならない。
ちなみに井上陽水の「東へ西へ」は
大好きな曲ですがもう怖くて聴けませんね。