くまもん

月のくまもんのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.0
心はあるかを問うて殺す。

意思疎通ができない人間に果たして心はあるのかと問われると、判断は不可能だけれど不可能だからこそきっとあるだろうと思いたくなる。これは、綺麗事だろうか。

障害者本人に心があるかを見極めるのは難しい。
だから、周りの人間が重度障害者に対して心を持って接しているかの方が重要な気がした。

彼はきっとあの施設の中では心を持って接しようとしていた。
意思疎通不可能な彼らに紙芝居を読み聞かせようとした。可哀想にと何度も言っていたが、そもそも彼らを心がないモノと思っているならば可哀想ですらないわけで。
けれど、障害者と対峙する時に彼が持っていた心は他でもない周りの健常者に打ち砕かれた。
現場スタッフが障害者を人間として扱わずにおもちゃにした。
臭いものに蓋をした園長。
入所したきり見舞いに来ない家族や、そもそも人目につかない場所に障害者施設を設置している社会。
意思疎通ができない障害者だから殺したというより、誰も理解しようとしない存在だったから殺したんじゃないのか。
だとしたら、道徳的にどうかとか法律上の話を抜きにしてしまえば、わたしには彼を手放しに糾弾することはできない(勿論殺していい理由にはならないとは思っているが)。
わたしだって彼らに何も手を施していない社会の一員だからだ。

映画館で見ていて、後ろの方の席に障害者の方を連れて見に来ている人がいた。
おそらくその方の親御さんだった。
上映中、うーとかあーとか、言葉にならない声をずーっと発していた。
色々な事情があるのだろう。
預けられなかったのかもしれないし。と思ったけれど、こういう内容の映画だと分かって連れて来たのだろうか。
どうせ理解できないと思ったのだろうか。
心はないと思っているのだろうか。
その場合この映画を見終えた後、どう思ったんだろう。どう感じたんだろう。

中途半端な作品ではないというのは確かだし、相当な覚悟がないとこの仕上がりにはならない。

個人的にモデルとなった植松死刑囚の友人が知り合いにいたこともあり、事件当時から色々と思うことはあったので、とんでもない映画が世に出たなという感覚。
事件当時被害者遺族のインタビューで、正直少しホッとしてしまった部分もあると答えていた方がいたのも鮮明に覚えている。

磯村くんは難役をこなすことに圧倒的な安心感がありますね。
この後正欲も控えているわけで。

92年の代は怪物役者揃いすぎです。
あとオダジョーって無職の役多すぎないですか。
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