ユーライ

月のユーライのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
5.0
ここまでの覚悟で迫られると良いとか悪いとかそういう問題じゃねぇわと言わざるを得ぬ。人間性に纏わる虚飾を剥がして剥がして剥がし倒す無間地獄の迫力に完全に圧倒される。相模原障害者施設殺傷事件をモチーフにしていることは言うまでもないが、時代を覆う気分に東日本大震災も導入。創作で現実を救えるのかといった問いは京都アニメーション放火殺人事件の影響もあるだろう。これら近年のやり切れぬ惨事に対する石井裕也の葛藤を綴る私小説といった側面が強い。先行作はいくらかあるんだけど、それらと比べると腹の据り方が尋常ではない。植松聖をモデルにした「さとくん」は劣悪な環境の中で届かぬことを知りながら、入居している障害者に向けて甲斐甲斐しく紙芝居の朗読劇を続けるような「良い人」だ。聾唖の彼女も邪険にしない。虐殺行為はNOとする倫理感も持ち合わせている善良な好青年。そのように見える。しかし、そんな彼こそ平然と優生思想を公言して憚らない。果たして障害者は生きていてもいい命なのか。心はあるのか。産まれくる障害児を中絶することとの違いは。そんな現実を創作で描くのが欺瞞でなくてなんなのか。俺とお前は同じだ。違う、貴方とは違う。何で、どうして。徹底的に揺さぶり続け、観客はペンペン草も生えない荒涼とした地平へ連れて行かれる。こんなもん答えなんてないんですよ。勘弁してくださいよ。最後に描かれる希望の、ようなものの弱々しさ。現実に対して創作は全面降伏するしかないように見えた。この血を吐くような事実をスクリーンに叩きつけられる監督が他にいるのか。石井裕也、やはり現代日本映画最強の作家だ。
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