明石です

戦慄怪奇ワールド コワすぎ!の明石ですのレビュー・感想・評価

4.0
『コワすぎ!』シリーズの待ちに待った八年ぶりの新作。工藤Dと市川アシスタント、白石監督の三人が京都の出町座に舞台挨拶に来ると聞いて、(予約が満員だったので)二日間、キャンセル待ちで朝から並んだにもかかわらず、両日ともあと少しのところで入れず、悔しさを噛み締めつつ通常上映で鑑賞しました。

私はこのシリーズのそれなりのファンを自認していますが、その色眼鏡を差し引いた上でも、「ファンのための映画」だなというのが第一印象。そしてそれはエンドロールまで変わらずでした。「インスピレーションを求めて、自分が過去に書いた作品を参照し始めたら作家は終わり」とレイモンド·チャンドラーは言う。この作品が、監督自身の過去作にインスピレーションの種を求めてるとまでは思わないにせよ、セルフオマージュの多さはやや目立ちますね。たとえば時間と空間行き来しパラレルワールドを旅しつつ怪異の正体に迫るストーリーは、すでに『トイレの花子さん』の会でやってる。八年という雌伏の時を経ての新作となると、やっぱり「新しいもの」を期待してしまうのはファン心理の性なんじゃないかなと思う。一作目で、工藤Dが「口裂け女を捕獲します!」と怒号を上げた時のあの前例のない興奮を正直本作にも求めてました。

しかし最大の難点は、もはや白石ホラーの看板と化しつつあるパンクな霊能者の存在だと思う。平成初期のスケバンみたいな格好のあからさまにキャラの立った女の子が出てきたあたりで、ちょっとだけ熱量が下がった。あ、このシリーズはもうそっちで行くんだ、という感じ。はだけた胸にサラシを巻いて、鉄パイプをたずさえた女の子。どんな媒体(正確にはアニメ以外)にせよ、今目の前にある現実と距離を置く作品には、鑑賞者も距離を置いてしまうもので、澤村伊智のホラー小説に出てくるような(どちらかというとアニメっぽい)キャラ重視の霊能者は、モキュメンタリーではそうそう出すべきじゃないなと思う。『カルト』や『貞子vs伽耶子』のような劇映画ならともかく。

本シリーズのファンにおそらく一番愛されてるのは、4作目(それこそトイレの花子さんの会)で出てきた真壁先生で、あの、霊能者としては非現実なほど見目麗しいながら「実在の霊能力者」として紹介されてもギリギリ違和感ない感じが、このシリーズの魅力をよく物語っていたなと。今作のスケバンは、キャラとしてあまりにあけすけに過ぎる。まずこんな人、令和の時代の現実には存在しない。キャラクターに走りすぎると、モキュメンタリーの体を摂ってる意味がなくなるのが難点ですね。擬似ドキュメンタリーというジャンルから「現実っぼさ」を取ったら何が残るのか。そして何より、新キャラに目新しさを求めてしまうと、そもそもこのシリーズが、主要人物三人のキャラであそこまで人気になったという前提を突き崩しかねない。『ルパン三世』の映画に出てくる新キャラが、究極のところ皆ルパンを引き立てるための存在だった(あの男が盗んでいったのはあなたの心です)ように、本シリーズの「新キャラ」も、ファンが今まで応援してきた既存の三人を引き立てる存在であってほしかった。

しかしそういうマイナスを差し引いた上でも、やっぱり工藤Dと市川さんとカメラマン田代(=白石監督)の化学反応は奇跡だよなと思う。謎のスケバンという異物が入ってきても、このシリーズの良さが根本の部分から損なわれることはないはず。予告編にも出てくる都市伝説の怪異「赤い女」がまさかの味方になって裏ボスを仕留めに行くくだりとか、発想が突き抜けてて、やっぱ白石監督は天才か、、と思わせられたし笑。とにかく、次作があったら絶対観に行くので、なんとしてもこの作品を、ノスタルジアから復活させた一作かぎりの企画物、で終わらせないでほしいと切に願う。お願いします白石監督!一生推しますので!!
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