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チャイムのyzのレビュー・感想・評価

チャイム(2024年製作の映画)
4.5
観たいけどよくわかんねぇプラットフォームだしスルーかなと思っていた所高評価を読んでついレンタルしてしまった。

かなり満足です。観て良かった。

明日もいつもの様に電車に乗る訳だけど、乗りたくなくなるな笑。あの音を鳴らすし、狭い空間に多くの他者と閉じ込められる。怖い。

黒沢作品ってこんな感じだったっけ?と思いもしたのだが、屋内外ともに撮影が良い。料理教室内の移動も死体遺棄後の歩き→走りのワンカットも見事。

「普通」の世界を生きる主人公に異質な他者が接触し主人公に決定的な変化が起き秩序を揺るがすという構造が相変わらず一貫している。(松岡も松岡でヤバい奴にしか見えないが、途中までは狂った人間ではない)

ここで決定的な変化とは「理解不可能である」ことの気づきだと取った。最も近い他者であるところの家族との会話ですら明確なズレが生じている。自殺する男は陰謀論者の様で分かりやすくヤバい。菱田は身勝手な理論をこねくり回す。これらは他者との断絶である。
そこで菱田に対して衝動的な殺人を働く。ここで言っている「衝動的」はあくまで私の印象である。しかしその人の中で何かが積み重なった時「衝動的」な暴力として発露されることは往々にしてある。レストランの男の行為がそうだろう。「衝動」なのだから本人がコントロールし切れるものではなく、何がトリガーになるかはその人にすら分からない。その時に外から見ている者に動機など分かるわけがない。

『蛇の道』の廃工場の様なバイオレンスが発生する魔空間としての教室。そこに鉄扉はなくシームレスに日常に繋がる。教室に轟く電車の音に似た缶の音が家の食卓に響いている。

気づきをもたらす魔境である教室で起きる出来事によって変化した松岡。住む家にも本格的な「何か」が来た後、後戻りできなくなった男が道路の真ん中に立つ姿は、全てを経て誰かすら不明な他者が作った理解不可能なルールに従う必要なんかないことに気づいた開き直りだと読めるように思う。魔界が侵食し、全世界の法則が塗り替わった。ではその後家に戻って行うこととは私は一択だと思う。恐ろしい。
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