ヘソの曲り角

ボブ・マーリー:ONE LOVEのヘソの曲り角のレビュー・感想・評価

ボブ・マーリー:ONE LOVE(2024年製作の映画)
4.5
ジャー、ラスタファーライー…ってずっと言ってる。ヤァマンより全然言ってる。独自の用語が注釈なしに飛び交うシーンがわりとあるのではじめは面食らうが見てるとだんだん分かってくる。あくまで推測だが、昔いた黒人の王を崇めてるめちゃくちゃアナーキーな信仰だと思った。レベルミュージックで言われる「バビロンシステム」はここにかかってくるんですねおそらく。映画開始時点でジャマイカは白人系二大政党と二大ギャング組織がエグい武力抗争を起こしててそのどれにも与しないカリスマアナーキーレゲエミュージシャンていうかラスタがボブマーリー、という勢力図になっている(勝手にスターにされてて困惑してるのがボブというのが正直なところか)。

ここで急に個人的な期待度の話をするが、海外の興収の高さと反比例な試写の評判であんま期待しない方がよさげだなと思っていたのだが意外と面白かった気がする。冒頭の文章解説と約105分という上映時間、説明なしの用語で前半かなり地雷臭がするものの最後まで見たら案外ちゃんと良かったなぁという印象。

本題に戻る。序盤に銃撃事件があってそれがフラッシュバックする苦しみと妻を守りたい気持ちがまず描かれる。中盤は渡英して世紀の名盤「EXODUS」ができるまでとボブマーリーが一気にスターダムを駆け上がっていくさま、自分が母国の戦乱に何ら関与できない憤りが主軸になっている。そして終盤、自らのガンを知り死を受容するとともに赦しの感情が芽生え、ジャマイカに凱旋する。途中何度も挟まれる白人の父と炎に囲まれるイメージが凱旋の時を迎え父が偉大なる黒人の主の姿へと変貌していく。アイデンティティの問題が深く横たわっていることがわかり、私はブルース・リーのことを思い出せずにはいられなかった。また途中で子供時代の回想が細切れに挟まってくるので時間軸を捉えづらいところもあるがそれも見ていくうちに慣れるので問題ないと思う。大筋がめちゃくちゃちゃんとしてるから音楽映画以上に伝記映画として普通に見れたと思う。

むしろ音楽要素が若干物足りないような気もした。劇中での歌唱よりサントラとしての曲が多かった。ラストのジャマイカコンサートをやらないでエンディングなのも意外。エンドロール中の3曲が超名曲でそれが一番ノレたかも。それでも回想中の演奏や「EXODUS」レコーディングでの曲は最高だった。

見ている印象として最初は正直「思想過激…」とすら思ったが途中の怒りからの需要を通して宗教観が丸くなっていて、そこには妻の助けもあったのがしっかり描かれていた。けっこうカットされてる感は否めないものの、105分でこのまとまり方はすごいと思う。さすが「ドリームプラン」の監督なだけある。ほんとは150分以上のボリューム感で見たかった気もするけど。