リドリー・スコット最新作。やはり流石は巨匠と言うべきか、絵のキマり具合が半端じゃない。これをリドスコ節と言って良いものなのかは定かでは無いが、色味の薄い渋さMAXな絵に痺れまくりな2時間半だった。
皇帝ナポレオンの伝記映画ってことで当然戦いのシーンは数多く存在するのだが、ジョゼフィーヌとのラブロマンスが作品のほとんどを占めている。「私無しでは何も出来ない」との言葉の通り、作中におけるナポレオンとジョゼフィーヌは正に一心同体の存在。彼女がナポレオンの傍にいれば戦いは圧勝し、逆にいなければ敗戦を喫する。
「英雄として称えられ、悪魔として恐れられた男」とあるように、確かにナポレオンの勇ましさと暴虐さを堪能できるのだが、私はそこに「ただの凡夫である男」と付け加えたい。確かに指揮官としての才能は申し分ないものの、戦場に立てば他の兵士と比べロクに戦えず、宮殿では情欲に身を任せジョゼフィーヌに求めてばかり（性行為の合図をするナポレオンの気持ち悪さといったらありゃしない）。ラストシーン然り、今作では徹底した「ナポレオンの"非"英雄化」がなされているように思えた。
そんなナポレオンを演じたホアキン・フェニックスは納得の演技力であり、ヴァネッサ・カービーのもたらす美貌はまさしく「病みつきになる」美しさだ。煌びやかかつ勇ましく見えて、その実はドロドロの愛憎がこれでもかと詰め込まれた愛別離苦の物語にして、1人の凡夫の栄枯盛衰の物語
果たして戦争のシーンは本当にあれ程の人数をかき集めて撮影したんだろうか。その様はさながら『トロイ』そのものである。これもリアリティ徹底主義を掲げるリドリー・スコットだからこそできた所業だろう。
