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ナポレオンの雑記猫のレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.3
 フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトの半生を描く伝記映画。若き軍人ナポレオンがいかに皇帝へと成り上がり、そして凋落していくのかを壮大なスケールで描く一方、妻である皇后ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネとの愛憎入り交じる夫婦生活も描写される。


 細かいディテールは一旦置いておくとして、作品全体で見るとかなり硬派な伝記映画のフォーマットを取っている本作。フランスの偉人ナポレオン・ボナパルトの生涯の重要なイベントを適宜拾い、約30年に渡る物語を2時間半にギュッと詰めつつ、人間ドラマについてはナポレオンと妻のジョゼフィーヌの夫婦関係のワンポイントに絞り込むことでタイトにまとめている。軍人としてのナポレオンと夫としてのナポレオンの二面性を強く押し出した作品となっており、かなり明確に軍事作戦パートと夫婦生活パートを行ったり来たりする構成が取られている点が本作の興味深いところだ。戦場においては類まれなる天才的な才能を発揮するカリスマ軍人のナポレオンが、夫婦生活においては妻のジョゼフィーヌに尋常ならざる執着を見せるキモいおっさんに成り果てているという、外と内で大きく異なる2つの顔がシームレスに描かれる。本作ではこの複雑なナポレオン像を主演のホアキン・フェニックスが見事に演じきっている。というよりこういう人物像を描くとなれば、今の時代、ホアキン・フェニックスに頼む以外の選択肢はそうそう無いだろう。戦場で冷徹に淡々と指揮を執るナポレオン、ジョゼフィーヌに良いように丸め込まれる情けないナポレオン、敵国の皇帝に対して尊大に振る舞うナポレオン、離婚した後もジョゼフィーヌの元へ足繁く通う空気の読めないナポレオンと、空中分解しそうなほどに多様な側面を見せるナポレオンを、”戦争の天才でありながら実生活では野暮ったいおじさん”という一つの人物へと巧みにまとめ上げるホアキンの演技力には脱帽である。正直なところ、ナポレオンの本作トータルでの印象はどことなく気持ち悪いおじさんという感じなのだが、それでもなお、モゾモゾっと冴えない雰囲気で食事している姿やジョゼフィーヌの前でモジモジモダモダしてる姿になんとなく愛嬌も感じてしまい、すっかりホアキンの術中にはまってしまった。


 本作では6つの大規模な戦場シーンが描かれるほか、有名な戴冠式のシークエンスなども描かれるのだが、そのどれもが大迫力のスケール感で描かれるのも本作の美点だ。アウステルリッツの戦いしかり、ワーテルローの戦いしかり、投入される兵士の数、戦場のロケーション、大砲を始めとした兵器の数、そのどれをとっても物量のスケール感が凄まじく、まさに大スクリーンで見る醍醐味とはこのことというべき贅沢な映像が次から次へと展開される。本作におけるナポレオンの戦法は、基本的にどの戦闘でも大砲で敵軍を圧倒するというスタイルなのだが、それにも関わらず、6つの戦場シーンそれぞれがカメラワークや陣形、ロケーションなどの色分けにより、しっかりと差別化がなされており、エンターテインメント映画として飽きさせることのない構成となっている。ゴア描写も大胆に取り入れられているものの、そこまでグロい映像にはなっておらず、あくまで戦闘の質感をリアルにするエッセンス程度に抑えられているのも見やすくて良い。
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