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ナポレオンのプライのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.6
フランスの英雄ナポレオンの台頭から最期に渡る激動の生涯を通して人物像を語る歴史スペクタクル。

当時の栄華を示す、煌びやかな衣装・装飾品・建物の内装。数百人以上の兵士が隊列を組み、砲撃が轟くダイナミックな戦場。権力・戦場・愛する者のしがらみで心境が移ろいながらも妻に愛を捧げるナポレオンを好演したホアキン・フェニックス。ナポレオンと愛憎による静かな戦争を繰り広げ、特別な存在となる妻ジョゼフィーヌを好演したバネッサ・カービー。豪勢な美術、大迫力の合戦、キャスト陣の好演といった一流の素材を取り揃え、その場の雰囲気にピッタリなBGMを逐一導入し、見事な編集力でナポレオンの生涯をまとめ上げて人物像を浮かび上げている。本作ではナポレオンを世間的に評される英雄および戦上手として見上げる存在に描かず、「一時代を築いたカリスマも、感情を持つ1人の男だった」といった哀愁や親近感が沸いてくる。偉人ナポレオンの物語というよりも、人間ナポレオンの物語と本作を表するのが正確である。英雄や天才と称された者と言えども、同じ人間に変わりはないと思わせてくれる。凡人から一線先の立場に追いやられる偉人の見方を180度変えてくれる作品。

ホアキン・フェニックスが素晴らしい。開幕直後からナポレオンを凡庸な人間であることを体現している。1発目の合戦シーンから、軍の役職に見合った威厳を放出しながらも「こいつ今まで運で生き残ってきただろ」と思わせる及腰な立ち回りを見せてくれる。砲撃の指示を出した後、誰よりも真っ先に耳を塞ぐ手つきの早さは、まさにそう。そんな男が権力の倍々ゲームにハマってから見え張りを膨らませていくグラデーションも見事。また、妻を演じたバネッサとの息を合わせた愛憎劇も素晴らしい。権力の渇望と愛の欲求を満たすため、共依存となる様は特別な関係性として奥深い。

合戦シーンが素晴らしい。広大な土地の中に数千人の演者を動員し、最大11台のカメラで撮影した戦場は圧巻。何百人から成る隊列を整えて動き回る兵士たち。轟く大砲の砲撃音と着弾音。飛び散る血飛沫と部位欠損。それらが入り乱れる戦場は臨場感の塊である。ナポレオンの人間性に重きを置いた作品なのに一切の妥協がない。良質なドラマを見れる上、大迫力の戦闘も見ることが出来るのは実にリドリー・スコット監督作らしい。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐
星の総数    :計18個
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