『非人間のレポート』
劇場今年一作目は無機質なアバターのプライヤーもあって認識違いもしたけれど、観てみるとひどく人間臭い映画だった。
仮想空間の中にある離島で戦闘や日常を楽しむ人々のアバターにマイク向け、バーチャルとリアルの乖離や存在意義、人としてのコミュニケーション、コミュニティの在り方について、会話を頼りにに浮き彫りにしていくという一風変わったドキュメンタリー…本当に色々と考えさせられた。
取材費用電気代と通信料だけ?
モニターの前にいればロケ地も取材対象もあちらから目の前に現れてくれる。
編集すれば作品として鑑賞料も取れるだなんて。
Googleストリートビュー上の写真家なんて人もいたけど、すごいエンターテイメントが生まれる時代になったものだと実感。
現実と見紛うほど、それどころか現実よりも人間好みの美しい映像世界。
ポスト文明の荒廃した建造物と自然の融和を感じさせるような超現実的な世界観は見応えがあった。
人ないしそれに近しい知能が作り上げた世界。必要な部分に解像度や情報が重みづけられる都合も使い勝手もいいインタラクティブでハリボテな世界。
私はこういうカルチャーに疎いためそういうものかと理解するしかなかったけれど、印象に残るものは会話ばかり。
おそらくNFTやらで価値のある衣装や武器に身を包んだアバターを操りながら仮想世界を体感、共感しながらコミュニケーションを深めているのだと思うけれど、ゲームの副音声というのか、昔、友だちがやっているゲームを後ろから観ていた時のような不思議な感覚に陥った。
インターフェースの仕組みはわからないけど、おそらく身体感覚を伴わない仮想空間での体験や交流…それでも利用者たちは記憶や体験を蓄積し、かけがえのないものだと認識している様子。
超現実的な映像美やフラットな情報に包まれた仮想空間でなければ、ネットゲーム好きを対象に行われる街頭インタビューのようにもとれる作品だったけど、コロナ禍のロックダウン下との対比もあり、メタバースやAGIといったテクノロジーの訪れに期待しながらも、代わりの効かない本質的な何かを感じさせてくれる。
AIが進化して最早人間は無用の長物。仕事斡旋を生業とする企業は挙げ句の果てに仮想空間の仮想の仕事を人々にあてがい、満足を与えるというディストピアなSFを読んだけど、マトリックスやニューロマンサーからさほど進歩のない世界観を感じながらも、そんな奇妙奇天烈な世界の訪れを感じさせるものもあった。
携帯電話を破壊して
ようやく世界と繋がった
イースタンユースの『矯正視力〇、六』の歌詞も頭をよぎった。