まみ

ママと娼婦 4Kデジタルリマスター版のまみのレビュー・感想・評価

-
今はもう好きになってくれない女が、欲しい女が目の前にいると、嘘か本当かわからない話をとめどなく話し続けるアレクサンドル。対峙する女は特に愛想良くするでもなく聞いてるのか聞いてないのかわからない目で見つめ返しているだけ。どっちかというと多分つまんない。言ってしまえば自分本位にしゃべり続けるアレクサンドルを見て、ああこの人は、特に誰かと二人でいるときに、話した言葉や行動が否応なしに二人の間に歴史を作ってしまって、それは原型を留めないスライムみたいにグニョグニョになって、時間が経つ度に嫌に美しくも、猥雑にもなってしまい、それは奥深くに刺さった針のように消えるものではないのだということをまったく考えない、というか思いもしない人なんだと思った。でも映画中盤(長すぎて中盤どこですか、って感じ)、主に会話をする二人や三人を遠目から撮っていたカメラが、真正面からヴェロニカに過去の女への明らかな恨みを告げるアレクサンドルを映すとき、アレクサンドルの底のない枯渇を理解した。眼光の鋭さが異常で怖すぎて、途中でサングラスをしてくれて良かった。目が離せなくて、字幕もあまり追えなかった。マリーが仕事で居なくなれば、他の女に会いに行くその悪癖も納得した。ただの他者の気持ちを慮れないあほぽんたんから少しアレクサンドルへの認識が変わったのだけれど、面白いのは映画が折り返してさらに進んでいく中でアレクサンドルの認識がただのあほぽんたんに戻って行ってしまったこと…多分映画長めだったからだと思う
あほぽんたんアレクサンドルでは自分の何をも救えないのだとわかってしまったヴェロニカの独白と二人が去ったあとのマリーの涙。一瞬の充足と永遠の孤独。「この世に娼婦なんていない」!マリーもヴェロニカもアレクサンドルを切れないかもしれない。でも私、二人が一度でも笑い合ってたこと忘れないよ。
あと映画館にいる時に地震が来たの、はじめてだったかもしれない。
まみ

まみ