tomohitooguro

市子のtomohitooguroのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

上映館少なすぎー!
観たくて仕方がなかったので遠出した

とても辛い映画なのだけど、何が辛いって、映画の冒頭と作中の重要なシーンとラストシーン〜エンドテロップで使用されている童謡「にじ」の演出が辛い。
「にじ」といえば雨があがって虹がかかり心配事が綺麗さっぱりなくなりましたよ、という歌詞なのだが、市子の母が月子の介護という重圧から解放されたシーンで使用されている。このシーンの印象は決してポジティブな感情ではない複雑な感情が入り混じる状況であり、間違いなく今作の見どころの1つなのだと思う、が、、辛いことの原因は映画冒頭とラストでは母ではなく市子自身が「にじ」をハミングしていることである。映画内ではしっかりとした言及はしていないが市子はフィアンセとの思い出は思い出として抱えたまま、自殺志願者の自殺を幇助しその自殺者になりすまして生きていくという選択をしたのだと自分は感じた。そこが辛すぎるのだ。しかも証拠隠滅のためにあのオタク男子も殺している。まじで辛すぎる。そしてラストの「にじ」のハミングである。市子の母が「にじ」をハミングしている時にポジティブな感情を持った視聴者はいないと思うが、じゃあエンディングの市子のハミングに対してどのような感情で臨めばいいのか。そしてどのような感想とともに劇場を後にすべきなのか。辛すぎる。今作における幸せの代表として結婚や一般的な生活が挙げられているが、それも戸籍あってのもの。戸籍という一般的には当たり前の平穏すらなければ、今作のラストの流れは必然と思えて仕方がない。


障害児童を抱える家族の問題や離婚直後の出産の問題を提起し、考えさせてくれたのは本当に素晴らしい。

また時系列をバラしてのミステリーの要素も楽しめた。

そして杉咲花の圧巻の演技にありがとうと言いたい。
特に、月子を殺してしまうシーンだが、カミュの「異邦人」の動機のような、「暑かったから」と言っている市子が思い浮かんだ。やっぱりあのシークエンスが今作の白眉。
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