橋口幸生

市子の橋口幸生のレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
1.0
高く評価されている作品だが、僕にとっては今年ワースト。受け入れがたい作品だった。

怒りの評論がバズっていた「月」と全く同じ問題を抱えた映画だと思う。映画としての演出のセンス、たたずまいは本作の方が優れてはいるものの、その分、より社会に害がある映画だと思う。少なくとも「月」は「無かったことにされつつある実在の事件を描こう」という気概があった。フィクションの本作には、そういうのも無い。

石山蓮華さんによる「マイノリティの属性を持つファムファタールを、物語を駆動させるためにスポイルしている」という、非常に的をいた評が全て。

障害者と無戸籍者、貧しい人、リアルな苦しみを抱えている人、弱い立場で反論できない人を狙い撃ちにして、物語のジェットコースターのために搾取している。

主人公が重度障害者の妹を介護疲れで殺すエピソードをもって、作り手たちはタブーを破ったと思っているのかもしれないけど、これは過激な表現でもなんでもない。

「障害者は社会のお荷物」「不幸しか生まない」というのは、人間の歴史で何千年も固定されているバイアスだ。本作はそれをなぞるだけ。これは過激どころか知的に凡庸で退屈、知的怠慢と言っていい態度だ。

そして、障害者の置かれた現状は今でも恵まれているとは言えないものの、先人たちの積み重ねで少しづつ良くなってきている。そういう部分は一切、描かない。それどころか、実際に現場で汗を流している当事者の描き方が極めて雑。(これも「月」と同じ) あんな超デリケートな個人情報を赤の他人にペラペラ話す支援者、いないよ。

群像劇で複数人物の視点で物語が進むのに、「月子」の視点は一切語られないことには恐怖すら感じる。こんなの、ナチスと同じでしょ。。。

「障害者はお荷物」と言いたいのなら、芸術ぶらずに、映画ぶらずに、ハッキリそう言えばいいのにね。そういう冷笑系インフルエンサーの方が、まだ誠実だよ。
橋口幸生

橋口幸生