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市子のたのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

まず杉咲花の演技が圧倒的に凄かった。高校生、20歳、28歳を全部杉咲花が演じていたが、どれも年相応に感じられて違和感がなかった。前髪が眉に被るくらいの感じだったこともあり、時折影で目が隠れるとある種の不気味さを感じさせ、いい演出になっていた。他の演者も深みのある芝居をしていた。
肝心の中身は、突如失踪した市子をこれまで関わってきた人の証言をもとにどのような人となりか浮かび上がらせるというものであった。物語が進むにつれて、DVや性加害、無戸籍児、障害者および福祉制度の欠陥など日本社会の抱える闇の側面が明かされていく。しかもそれらは複雑に絡まっており一筋縄で解消するものでもない。そうした状況のなかで生きてきた市子とその家族の心情は想像以上に苦しいものだろう。
最後の場面で2人の男女が車に乗ったまま死亡したニュースが流れる。市子が鼻歌を歌いながら歩いているシーンがあり、その流れから市子ご北らを殺したと思うだろう。けれどもはっきりと答えは出さずに市子が歩いているシーンは幻想もしくは走馬灯という捉え方もできる。市子として生きると決め、幸せを掴むチャンスまでたどり着いたけれども、それを受け入れることを許せなかった自分がいたかもしれない。
そして、エンドロールで市子ともう1人の声がやまびこのように聞こえてきた。おそらく月子なのではなかろうか。市子は過去を捨て去りたいと思ってはいるが、どうしても拭えない罪悪感。それを表していたのだろうか。見終わったあとに時間が経っても考え続けてしまう、そんな作品であった。
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