水野統彰

市子の水野統彰のネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

離婚後300日間に出生した子は元夫との子とみなす。(民法772条)

DVから逃げるように離婚をした母。
川辺市子はこの300日間に生まれ、戸籍を持てないまま母は別の男と再婚、そして河辺月子を出産する。
しかし河辺月子は先天性の筋ジストロフィーを患う難病の子だった。

それでも新しい家庭は円満で市子が月子に食事を与える姿や4人の円満な写真が映し出される。しかし旦那の借金が原因で家庭は再び母子家庭へ。

無戸籍のまま生きていた市子はある日、母の出勤中に月子の酸素吸入器を外し殺害してしまう。
帰宅後、母は月子の様子を確認し一言
「ありがとう。」と呟いた。

そのとき市子は変わりに有戸籍の月子として生きていく決心をする。

映画の始まりは長谷川が市子に対しプロポーズをした翌日、市子が失踪したところから始まる。
それまで幸せな生活そのものだったにも関わらず突然失踪した市子を探すため、長谷川は警察に頼るも、警察は思いがけない方向から市子を探していた。

ある山奥で河辺月子と思われる白骨化遺体が見つかったというのだ。

警察はそれまで市子(月子)と付き合いのあった古いクラスメイトから最近関わりのあったケーキ屋の友人まで市子の生活を洗っていく。

この物語はすでに2件の殺人を犯した市子が真実の愛を受け入れることができず長谷川のもとを離れた切ない話とも見て取れるが、ミクロとマクロの両方の視点から社会問題が見て取れる。

ミクロな視点でいうと
民法の影に無戸籍になりうる子がいるという問題点である。
300日間の間に生まれた子は民法772条により、仮にDVから逃れるためだったとしても元夫の子とみなされ親権が付与される。
したがって子どもへの面会や居住先について知らされる権利が与えられる(?)。
子どもを守れないと判断した母はやむなく市子の無戸籍を選択した。

無論、戸籍を獲得する方法がないわけではない。しかし戸籍獲得のためには指紋登録が必要であるため、すでに月子を殺害していた市子にとっては指紋の提出は困難だった。

翻ってマクロな視点で言えば、男性優位社会と力で支配しようとする男性へのアンチテーゼでもあったようにみてとれる。
その理由が、そもそも民法772条が女性への一方的な法であることと、登場する男性(特に市子と母の周辺)の行動が、力による行為で女性を支配しようとする姿が強調されているからである。
例えば市子のはじめての彼氏は体の関係を強くのぞみ、キスさえ拒まれれば好きではなくなったのかと問い詰める。
また、同じく高校のときに知り合う北は市子への執拗な愛情から、市子を守るという体で殺人の隠蔽に協力し、それを理由に市子を自分のものにしようと息巻く。

市子の養父も市子と母の2人が生きていられるのは自分のおかげとばかりに、市子の体を求める。

したがって市子の背景にはこうした大きな強権と近くの強欲により支配される様がみてとれる。

杉咲花の演技力が光る一本であった。
水野統彰

水野統彰