花火

彼方のうたの花火のネタバレレビュー・内容・結末

彼方のうた(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

通行人の行き交う中、歩道に小川あんが動かずに俯いている。そのカットはそれなりに長い時間持続して映され続ける。観る側は始め、一体これは何なのだろうと思う。けれどもその映像をじっと見つめ続けているうち、あるいはそれまでのシーンにも思いを巡らせながら、これは喪った誰かを悼んでいるのではないかと考える。だが現実を考えれば、もしくはこのカットの直前に差し込まれる向かいの道から(おそらくは彼女を見留めたのであろう)一瞬だけ見た誰かのように、実際にはそうやって思い至るまで誰かを見続けることはそもそも出来ない(、か不審者になる)。だからこの感覚は、まさしく映画だからこそ可能な境地なのだ。誰かを見つめるという主題系は、冒頭で小川が中村優子や眞島秀和をつけていたり、もしくはデッサンのワークショップで他の参加者から「いま(自分のことを)見てましたよね?」と詰められるシーンなどで一貫して描かれる。さらに言えば、ワンシーンワンカットの短編映画を撮るワークショップでも、どういうWSなのかを示す別の参加者の撮影風景は1.撮影を兼ねる監督/ 2.演じる別の参加者/ 3.見守る他の参加者や講師らをひとつのフレームでまとめて写すのに対し、小川の番ではカメラを回す小川その人だけを撮り続ける。
ファーストショットのカセットレコーダーを持つ手元アップが、遠出した先の橋の上で反復される。一度目は一人だったのに対し、二度目は二人であることがこんなにも安堵できるとは。
ラスト、今まさに消えようとしていた小川あんが中村優子の抱擁によって繋ぎ止められる。誰かを見続けていたその目に観客も改めて出会い直して映画は終えられる。
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