モンティニーの狼男爵

彼方のうたのモンティニーの狼男爵のレビュー・感想・評価

彼方のうた(2023年製作の映画)
4.9
とてつもなく、余白。
この監督の目に世界はどう映っているんだろう。
この余白が「他者は他者であり、100%の純度でその人のことを理解することはできないし、私の事もまた理解される術を持たない」みたいな自分の中の哲学とマッチしてて肯定的に映ったけど、それはこの映画だからなんだろうなとも思う。

鑑賞中、ずっと余白を埋める作業をしていたけどあまりしっくり来なかったのだが、ラストの春の表情でブワッと繋がった。たぶん自分勝手な感覚の中で。
観終わったあとの自分の中の構築が正しいのか確かめたくてもう1回観たいけど、公開規模が少なすぎる。。

ここからは妄想ありきのネタバレ













①希死念慮
「だめだよ」と雪子に抱き留られる春のラストの表情から、(この子はずっと死に向かいたがっているのか)と思った。チラシやパンフから読み取るに、春は何かしら母に対して悲しみを抱いている。ラジカセに残された川の音を探して、恐らくそこに面影と理由を求めている。
常連夫婦の子供を見る、春の後ろ姿。きっと表は微笑んでいるのだろうけど、という感じ。
宇宙人みたいに、ひっきりなしに愛想がよく笑顔を絶やさず、ただただ優しい彼女でもふと陰りが溢れ出す瞬間。

②キャラメル
「他人に言われて忘れられないこと」を再現するレクリエーションで、家を出る母に対して「キャラメル」を買ってきて欲しいと(多分)春は頼んだ。「わかった」と言う母の言葉を最後に、春はカットをかける。
パンフに脚本が書いてあるのだが、剛と対面しているカットにて、「中学生の頃、ホームで」という春に「…キャラメルの?」と剛が思い出して、剛は泣く。
キャラメルのくだりが映画では無かった気がするが、脚本には書かれている。どうして泣いたんだろうと思ったけど、いや分かるかい!
むっちゃ妄想だけど、母が電車で自死したとして、その背中を掴みきれなかった剛がいたとして、駅員さんを呼んだからと事情聴取を受ける剛の手には彼女の荷物があって、そこに不自然にキャラメルがあったとして、

③送るよ
駅まで送るよ、と雪子は言って、春はいいよと言う。雪子はそれでも食い下がって、送るよ、と言う。雪子は春の母の友達だと、仮定する。
①に戻るが、春の何かの雰囲気から雪子は春の母を思い出す。春は禊のように、飛び立つ鳥跡を濁さずの如く、拭いて片付ける。
抱き締められた春の表情は、見つかった哀しみと、諦念と、やるせなさと、戸惑いと、その他言葉にできる感情以上のものが集約されていると思った。

つらつらと、妄想が妄想のまま連ねましたが、この作品の本来の姿を「正解」として捉えるのはナンセンスだと思う。これはそのまま、自分が感じたものを信じていい。
余白。を、映画制作の長期間スパンを経て残すことにどれだけの勇気と信頼がいるんだろう。監督は観客を信頼しているのか、映画の力を信用しているのかは分からないけど、やっぱり監督の目に映る世界や人や風景や映画を知りたいと思った。