わかめ

悪は存在しないのわかめのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
5.0
これを観たあとは、大切な場所を想わずにはいられないと思う。

共存とはバランスであり、命のバランスその均衡こそが自然の美しさをつくる。

均衡を保つ高原の村で、人々が手を取り合うように生活している。
薪を割ったり水を汲んだり、知り合いのおじさんが喜ぶからと鳥の羽を拾ったり。
どの人にも、生活の端々に生きてきた時間/経験してきたことが垣間見える瞬間があり、その村の均衡は、その人たちの経験がなすピースの凸凹がかみあう事で保たれているような気がする。

そこに突如現れるグランピング施設の建設計画。
内側を無視し、外側の集客しか考えない観光開発のグロテスクさに嫌悪しつつも村人は受け入れられる形にしようと対話する姿勢を貫く。
「都会の人はここにストレスを投げ捨てにくる」
この言葉は重く、鋭く光っている。もうすでに開発されてしまった観光地や、いままさに開発されんとしている場所に訪れる人々がみんなわかっていなければいけない事だ。

濱口竜介の脚本力の高さに笑い、雪解けの気配を感じた頃、果てなき自然のバランスの中に私たちは戻される。それは劇中のサントラが急に停止するのと相関している。秀逸なラスト。
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