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悪は存在しないの周辺住民のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.8
彼の監督作品を鑑賞するのは初めて、先に言っておくと素晴らしい映画を観た。

地上から見た森の空を映し出すファーストカットと石橋英子の音楽、長回しの偶然が作った有るものがあるべき場所にある感覚を感じた。

音響や吸い込まれるような構図から私たちが実際にそこに居るような錯覚を起こした。

日本映画にはない映像の使い方ばかりで普段邦画をあまり観ないから非常に親近感を感じた。
小津の影響を受けたヨーロッパ映画監督に影響を受けた視点、というより見せ方が何よりもワールドスタンダードな作家性の高い映画のそれだった、ということに気づいて心が震えた。

また、巧とは自然そのものでそれを擬人化した形で人間として描いているように思えた。
公民館のシーン、それぞれがグランピング施設への意見を述べるが、巧だけ、人間としての意向を無視して自然がそのまま語りかけているような感覚さえした。

そしてバランスを崩した(=花を襲わせる原因にもなった?)事務所の男性を殺害する。そこに悪は存在するだろうか、自然という信仰の対象に人の善悪を当てはめられるのだろうか。

加害者と被害者の線引きをとことん曖昧に
させられる作品だった。上流下流の話でもそうだったが悪の原因は見上げると果てがなく、それこそ存在さえしないのでは、とさえ思う。

美しいが前提として暴力的。

そういった視点で楽しみました。
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